Playback 日比谷音楽祭2023

Report レポート

音楽は国境も世代も越える
『Hibiya Dream Session 1』ライブレポート

日比谷音楽祭実行委員長・亀田誠治が中心となり、日本の音楽シーンで活躍するミュージシャンが集結した日比谷音楽祭のスペシャルバンド「The Music Park Orchestra」。彼らを中心に豪華ゲストを代わる代わる迎えて行われるのが『Hibiya Dream Session』だ。2023年6月3日(土)、1日の終わりに日比谷公園大音楽堂「YAON」ステージで開催された『Hibiya Dream Session 1』の様子をお伝えする。

6月上旬の18時半はまだ明るい。まず登場したのは、ロンドンから来日したボーイ・ソプラノ・ユニットのLIBERA(リベラ)。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのCMソングや日本のドラマでも楽曲が使用されており、昼間に行われたサイン会では長蛇の列ができるほど人気が高い。1曲目に「Far away(邦題:彼方の光)」が始まると、その透き通った声に会場中が息をのんだ。続けて亀田が作詞・作曲・プロデュースをした全編日本語詞の「明日へ ~for the future~」を披露。亀田曰く、LIBERAには日比谷音楽祭の開催初年度から出演をオファーしていたらしく、念願叶っての共演だったとのこと。想いの強いブッキングに、この後のステージへの期待感も強まっていく。

LIBERAの最後の曲では、日比谷音楽祭にこれまでも出演してきた歌姫・新妻聖子が加わり、Bette Midlerが歌いグラミー賞を受賞した曲としても有名な「From a Distance」を一緒に歌い上げた。『少し離れた場所から世界を見ると、私たちは、同じ楽団に所属する楽器』といった平和を希求する歌詞は今の世界情勢とも重なり、さらに日比谷音楽祭のテーマ「ボーダーレス」とも通じている。

続いて新妻聖子が過去に演じたミュージカル『GOLD〜カミーユとロダン〜』から楽曲「GOLD」を披露。才能がありながらも、ロダンの愛人であったことや性別が足枷となり、生前評価されなかった彫刻家・カミーユ・クローデル。しかし芸術は作者が亡き後も残るということを歌った、制作に向き合う人を勇気づけるナンバーだ。ワークショップで楽器を体験したりライブを観たことで、音楽を始めたくなった人も多いだろう。そんな人は背中を押されたに違いない。ミュージカル映画『マンマ・ミーア!』でお馴染みのABBA「Dancing Queen」が始まると会場は総立ちになる。「歌って踊ればいつだって若い時の気持ちを取り戻せる」と歌うこのナンバーは、幅広い年代の人が参加した1日にぴったりだ。

次は誰が登場するのか、期待に包まれる会場で亀田が呼び込んだのは、尺八奏者の藤原道山。日比谷音楽祭ではとにかくいろんな種類の楽器、音楽に触れる機会がある。そして『Hibiya Dream Session』でも、和楽器を中心としためくるめくステージが待っていた。

まず藤原道山が尺八一管で披露したのが、「アメリカの第二の国歌」とも言われる「アメイジング・グレイス」。そしてゲストに日比谷音楽祭3度目の出演、世界で評価される津軽三味線奏者の上妻宏光を呼び込み、「東風(こち)」を演奏。雅楽は大人しく静かな音楽だというイメージがあったが、早計だった。細かい息遣いで刻まれる尺八のリズムと三味線ソロは、風流で雅やかでありつつ、アグレッシヴで新鮮に聴こえた。上妻は続けて亀田リクエストの千住明作曲「風林火山」を演奏し、三味線の魅力を存分に感じさせてくれた。

続いて登場したのは、奈良時代から今日まで1300年間雅楽を世襲してきた東儀家の親子、東儀秀樹と東儀典親。「雅楽師だけどロックが好き」という意外な発言から始まったのは、QUEENの「Bohemian Rhapsody」と「I Was Born To Love You」のメドレーではないか!親世代から子どもまでを夢中にさせるロックチューンで、雅楽に親しみがなかった観客の視点を一気に集める。息子・典親のエレキギターがグリッサンドした終着点と父・秀樹の篳篥(ひちりき)の切れ目がピッタリと合ったのには鳥肌が立った。楽器同士のルーツが離れていても、リズムは共通だ。そして尺八の藤原、三味線奏者の上妻を呼び戻して「和楽器の一大アンサンブル」が始まる。アイリッシュ調の楽曲「Steppin’ Slide」を披露して幕を閉じた。

さて、ここからは雰囲気が一変して、チャラン・ポ・ランタンがバンドメンバーを引き連れて大道芸編成で登場!亀田と一緒に作った楽曲「ぽかぽか」を披露した。そして、もも(唄)と小春(アコーディオン)が残り、The Music Park Orchestraと一緒に「旅立讃歌」を演奏。賑やかなパフォーマンスで会場を巻き込み、一気に中盤へ。

「めまぐるしいでしょ。でも、音楽って楽しいでしょう!」という亀田の呼びかけに、会場は拍手で応える。「色んな音楽を届けるために、これからも日比谷音楽祭を育てていきたいと思っています。歴史的な瞬間が起こっていますが、皆さんはそれを一緒に味わって、目撃している仲間ですよ。家や学校、職場で自慢してください。」

続いて駆けつけたのは、なんと加藤登紀子!「野音100年のお祝いにふさわしい歌があります」とピアノに世武裕子を迎えて披露したのは、スタジオジブリの映画『紅の豚』で親しみのある人も多いだろう、「時には昔の話を」。1987年に『百万本のバラ』のB面としてリリースされ、加藤が今日まで長く歌い続けられてきたこの曲は、会場内の老若男女に、各々の温かい過去を想起させただろう。

「歌手になって最初に立ったステージが野音なの。1965年7月14日。それから一番思い出に残っているのは、1972年に結婚して、歌手を辞める前の最後のステージ。ここで歌ったことが私の中では、本当に忘れられない、歌手として最高だわ、という思い出だったから、翌年歌手に戻ることができました。野音のおかげです、ありがとう!」歌手活動を再開するきっかけともなった野音のステージにこの日立てることは、加藤本人にとって特別なことだったのだ。それぞれが、個人の想いを抱えてこの日のステージに立っている。

「歌えるってことが、最高ね。だから私何歳になっても死ねないの。みんな長生きしましょうね。」という言葉の後に披露されたJohn Lennon「Imagine」は、宗教や国、それぞれの利己心から起こる戦争がない世界を望んだ歌だ。そして呼び込まれたゲストは、若干13歳の若手ドラマーYOYOKA、先ほど登場した東儀秀樹、東儀典親、新妻聖子、そして、チャラン・ポ・ランタン、この曲に駆けつけた坂本美雨。披露したのはベトナム戦争中にリリースされてから長く歌い続けられてきた楽曲、John Lennonの「Power to the People」だ。この日のセッションには、音楽の持つ力で会場が一つになることで、世界に平和が訪れるというメッセージも込められていたのだろう。国境を越えることができる音楽がたくさんの人に広がれば、争いはなくなる。それは日比谷音楽祭が「フリーでボーダーレス」を掲げる、一つの理由に違いないと確信した。

さて、早くも終盤に突入する。亀田がコロナ禍で出会った若い才能として紹介されたのは、シンガーソングライターのTani Yuuki。この曲に聴き覚えのある人は多いだろう。ヒットソング「W / X / Y」を披露。既に新進気鋭の域を超えた存在感で会場を一体にし、心地よい余韻を残していった。

続いて飛ぶ鳥を落とす勢いで人気沸騰中のダンス&ボーカルグループ・FANTASTICS from EXILE TRIBEから八木勇征・中島颯太が登場すると、会場は歓声に包まれた。披露したのはこの日のためのスペシャルメドレー!「PANORAMA JET」「Summer Bike」「Choo Choo TRAIN」の3曲は、FANTASTICS×亀田誠治×佐藤可士和によるコラボとして昨年リリースされた楽曲だ。そう、このセッションに登場するのは、亀田がサウンドプロデュースやアレンジなどの音楽活動で関わっているアーティストも多い。亀田は普段からジャンルを問わず音楽に関わり、そんな亀田のキュレーションによって日比谷音楽祭には、日本のさまざま音楽文化がボーダーレスに混じり合う1日となる。

トリを飾るのは、世代を超えて愛されるシンガーの木村カエラ。ギターで弓木英梨乃、ドラムでYOYOKAも参戦し、特別編成で披露したのはサディスティック・ミカ・バンドの大ヒットナンバー「タイムマシンにおねがい」。木村カエラが「みなさん、このライブも残り少なくなりました。立ちますか?よし、行こう!」と呼びかけると、観客は待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。弓木のギターソロが唸るにつれて観客の熱も上がり、70年代から色褪せないヒットチューンの魅力で、会場は一つとなった。

気がつくと日も暮れて、名残惜しくも最後の1曲。「Butterfly」のイントロが流れると会場はいつの間にか、メロディを口ずさむ観客の歌声で満たされている。昨年の開催時は、まだマスクをしていて、声出しは出来なかったことを思うと、胸が熱くなる。会場でシンガロングできる日常が戻ってきたことを象徴する光景だった。

終始、会場中が熱狂し続けていたように思えた『Hibiya Dream Session 1』。ジャンルも時代も国も超えて多種多様な音楽が一堂に介していて、それぞれ個別のアーティストを目当てに集まったであろう観客が、生の音楽の元に一つになっていた。なぜ亀田は「フリーでボーダーレス」にこだわるのだろうか。ロンドンのLIBERAが日本のフェスティバルで受け入れられているように、音楽は国境を超えて人々を一つにする。そして子どもから大人まで、世代を超えて笑顔にする。つまり文化の中でも特に音楽は、瞬時に様々な境界を超えることができるのだ。そしてフリーであることをきっかけにして、多種多様な音楽の魅力を感じることは、自分の中にそれまでなかった文化を取り入れることであり、他者への理解に繋がる。そうやって世の中が少しずつ優しさで満たされていくための、きっかけとなる一夜だった。

レポート初出時、一部情報に誤りがありました。
お詫びして、訂正させていただきます。

文:柴田 真希(しばた まき)

1997年生まれ、西荻窪在住のフリーライター。インディペンデントなカルチャーを扱うWEBメディア『ANTENNA』の他、音楽業界情報サイト『Musicman』等で執筆。音楽フェスやライブハウス、そこで出会った素敵な人や音楽について幅広く取り扱う。twitter