Playback 日比谷音楽祭2022
- Report -
確かに手渡される音楽のバトン
Hibiya Dream Session 2 /
6月4日(土) YAONステージ(日比谷公園大音楽堂)
谷岡正浩(編集者・ライター)
矢野顕子と上妻宏光によるコラボユニット「やのとあがつま」が、“Hibiya Dream Session 2”のトップアクトで観られることの贅沢さにまずは驚かされた。矢野のキーボードと上妻の三味線に加えて、シンセのデジタルビートとサウンドが融合する民謡の新解釈を提示するユニットがクリエイトする音楽は、未知のダンスミュージックだ。1曲目は熊本民謡として知られる「おてもやん」。英語詞も交えながら音楽のボーダーレスな楽しみ方を自由に楽しみながら表現していく。矢野がピアノの前に移動して始まったのは「津軽じょんがら節」。もはや国籍もルーツも吹っ飛ぶ南蛮渡来風のアレンジで、椰子の木に雪が降りかかるようなあり得ない光景が脳内で再生される。
「宇宙が見えましたよね」とステージに現れるなり言った亀田の言葉も決して大袈裟ではない。次の曲は、The Music Park Orchestraも加わって披露した「ひとつだけ」。多くのアーティストやバンドがカバーしていることでも知られるこの楽曲は、特に忌野清志郎とのデュエットが記憶に残っている。いつの時代も人々の心の大切な場所にあり続けるスタンダードナンバーだ。上妻宏光の三味線のソロが最初からそこにあったもののように響くのは、何よりもこの曲自体が持つ感受性の豊かさだ。
「『ひとつだけ』の入っているアルバム(4thアルバム『ごはんができたよ』1980年)を中学生の僕は買って、音楽っていいな、いつか自分もミュージシャンになりたいって思ったのを憶えています」と亀田が言ったように、『日比谷音楽祭』の重要なテーマのひとつである“新しい音楽の循環”の音がカタカタと鳴るのが聴こえた瞬間だった。
EXILE SHOKICHIに続いて登場したのは、ミッキー吉野。
「レジェンドに囲まれて恐縮中の恐縮です」とEXILE SHOKICHIが素直な心情を吐露して披露したのは、布施明のヒットナンバーとして知られる「君は薔薇より美しい」。1979年発表のこの名曲を作曲・編曲したのが当時ゴダイゴのコンポーザーとして注目されていたミッキー吉野だった。1985年生まれのEXILE SHOKICHIがオリジネーターと共に歌い継ぐというところがまさにDream Sessionだ。EXILE SHOKICHI & The Music Park OrchestraによるEXILEの誰もが知っているナンバー「Choo Choo TRAIN」は極上の和製ソウルポップ。「君は薔薇より美しい」から「Choo Choo TRAIN」へつながっていく様がJ-POPのヒストリーを紡いでいるようで感慨深い。最後の〈Wow Wow Wo〉のコーラスのところでオーディエンス全員でジャンプ! やっぱりヒット曲の威力ってすごいなと改めて実感した。
次にEXILE SHOKICHIが呼び込んだのは、MIYAVI。披露するのはもちろん「Fight Club」だ。MIYAVIのアルバム『SAMURAI SESSIONS vol.2』で実現したコラボが野音で炸裂。MIYAVIのギターソロに合わせてEXILE SHOKICHIがステップを踏む、まさにバトル感満載のステージだった。
同じく『SAMURAI SESSIONS vol.2』から今度は相手をSKY-HIにして「Gemstone」を披露。ステージ後方の最も高くなっている場所から登場したSKY-HIは縦横無尽に動きながらパフォーマンスしていく。SKY-HIのリリックにMIYAVIがギターでアンサーしていくやり取りは音楽的運動神経の良さみたいなものが感じられ、誰がどう観ても“カッコいい”という感想しか出てこない、“憧れ”がそのままそこにあるようだった。
ここで亀田が再びミッキー吉野を呼び込むと、続いて“日比谷ブロードウェイ(井上芳雄、佐藤隆紀(LE VELVETS)、木下晴香)with 劇団四季”から井上芳雄、佐藤隆紀、木下晴香の3人が登場した。
いったい何が始まるんだ!? と誰もが度肝を抜かれたところでミッキー吉野のキーボードが響き、まさか!?と思ったところ、やっぱりあの曲だった! 「銀河鉄道999」。いつだって前向きにさせてくれるこの曲の素晴らしいところは、みんなで歌えるということ。今回は感染症拡大防止の観点からオーディエンスは歌えなかったが、井上、佐藤、木下の素晴らしい歌唱が文句なしにみんなの歌声を引き取ってくれた。ミッキー吉野のソロのあのフレーズ、そしてMIYAVIのエフェクティブなサウンドによるギタープレイと、この日だけの臨時特急が星空に向かって駆けて行った。
ミッキー吉野とMIYAVIを送り出し、興奮冷めやらない会場の雰囲気に、井上のこんな感想が笑いを誘う。
「生まれて初めてギタリストと背中合わせで歌うやつやりました。あれ、みんなもやってみた方がいいよ」(井上芳雄)
「僕もMIYAVIさんが近くに来てくれたとき、ドキドキしちゃった」(佐藤隆紀)
「慣れないことしてるって思いながらピョンピョン跳ねてました」(木下晴香)
なんだかMCの息もピッタリなさすがの3人が届けてくれたのは、ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』から「Tonight」。劇中で人種や差別に葛藤しながら愛への希望を歌うこの曲が持つメッセージは、まさに今届けたい歌のひとつだ。歌声が心を解放してくれる最高の瞬間だった。
「『日比谷音楽祭』1回目にも出演してくれたこの方をお呼びしましょう」と亀田実行委員長の紹介で登場したのは、石川さゆり。5月18日にリリースしたばかりのコラボシリーズアルバム『X-Cross Ⅳ-』に収録されている「人生かぞえ歌」は、様々な人生をクロニクルのように紡いでいった大河的歌謡曲で、今回は「ここにいるみんなひとりひとりの人生に寄り添う歌にしたい」という石川の思いをThe Music Park Orchestraとカタチにしていった。そうやってみんなでつくる様が、ジャンルを超えて紛れもなくポップソングだと感じた。「いい日もあるしそうじゃない日もあるけど、これでいいんだよって乗り越えていけたらいいですよね」(石川さゆり)
そこへ、すっかり仲良しの音楽仲間になったというMIYAVIとKREVAが合流。
「この日のためだけに来たから、ちょっとひとついいですか?」とKREVAが言ったのは、クラウドファンディングへの協力について。「こんなに楽しいイベントがフリーで楽しめるんだもん。大事なことなので俺は言いたい。これを続けるには皆さんのお力が必要です、よろしくお願いします!」(KREVA)
みんなでつくる音楽祭、それが『日比谷音楽祭』だ。ラストは、「火事と喧嘩は江戸の華」。アグレッシブなギターリフとラップ調のリリック、〈ヤートヤトヤト〉の掛け声など、三者三様の見せ所がひとつになって生み出す破壊力抜群のナンバーが東京のど真ん中を揺らした。
と、ここでアンコールとして特別ゲストが! 亀田と井上芳雄のコールでステージに登場したのは劇団四季の岡本瑞恵。「歴史的な瞬間!」と井上が興奮するのも当然で、まず劇団四季の俳優が他のミュージカル俳優と同じステージにいることがあり得ないし、さらには四季劇場以外のステージで歌唱するのも異例のことだ。まさか、こんなサプライズがあったとは。会場も騒然とするなか、岡本が披露したのは『アナと雪の女王』から「ありのままで」。この日このステージでつながれたバトンが岡本の表現力豊かな声で確かに明日へと手渡されて行った。
Hibiya Dream Session 2 の見逃し配信は、6月18日(土)~6月26日(日)の間、U-NEXTにてご視聴いただけます。
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