Playback 日比谷音楽祭2024

Report レポート

Hibiya Dream Session 3
ライブレポート(6/9)

「日比谷音楽祭2024、Hibiya Dream Session 3。(今年)最後のYAONのステージになります。もう思う存分楽しんでってください。 最高の仲間が集まって、最高の音楽をみんなに届けます。準備は出来てますか?」

実行委員長・亀田誠治の挨拶からThe Music Park Orchestraの演奏がスタート。河村“カースケ”智康とYOYOKAのパワフルなツインドラムに迎えられて登場したのは波飛沫が描かれた着物姿の石川さゆり。歌うは「ソーラン節」だ。歌声についてはもはや言うまでもないだろう。天下一品の「ソーラン節」である。佐橋佳幸のロックなギターと小田原 ODY 友洋のコーラスも勇ましく、夜祭りの様相に野音を染め上げていく。

歌の熱気が冷めやらぬまま、息を切らして石川が亀田に語りかける。「ちょっと演歌でございます(笑)」。「私、デビューした頃、50年ちょっと前にこちらで歌わせていただいたことがあるんですけど。 それからいろんな伝説がここで生まれて。でも何だか日比谷の森が静かに眠りについてしまったような時期があって。そこに亀田さんがみんなを集めて音楽の目覚めが始まったのかな?という感じがして。ねえ、皆さん楽しいですよね!?」。石川の言葉に客席が拍手で応える。

続いては亀田・石川両者の盟友でもある箭内道彦作詞の「しあわせに・なりたいね」。ささやかな幸福を求めるモノローグのような石川のやさしいボーカルを、四家卯大、田島朗子のストリングス、斎藤有太、皆川真人の鍵盤の美しい音色が支える。「みんないつも笑顔でいられるように。本当に幸せで、音楽が、歌が、みんなを繋いでくれますように。今日はいっぱい楽しんでいってください」。日本の“粋”と人と人を繋ぐ“やさしさ”を届けてステージを後にした。

「続いてはこの方が幸せを届けてくれます。ハラミちゃん!!」という亀田の呼び込みでTシャツ姿のハラミちゃんが登場。「ストリートピアノをYouTubeの動画にあげて活動5周年。『ピアノを身近に』という思いでずっとやってきたので、この日比谷音楽祭には勝手にシンパシーを感じていて。本当に光栄です」と挨拶。「世代を超えて楽しめるアニメソング13曲メドレーを持ってきましたー!!」と、「ルパン三世のテーマ」から「残酷な天使のテーゼ」(「新世紀エヴァンゲリオン」)、「宇宙戦艦ヤマト」、「紅蓮華」(「鬼滅の刃」)、「アイドル」(「【推しの子】」)、「Bling-Bang-Bang-Born」(「マッシュル-MASHLE-」)、「銀河鉄道999」などを流麗に繋げ独奏していく。まさに客席のあらゆる世代が楽しめるアニソンメドレーだ。

「やだ、次で終わっちゃう。早いよー、あと15曲は出来るよー」と笑顔で悲鳴を上げるハラミちゃん。ここで亀田、河村、東京スカパラダイスオーケストラからホーンセクション(NARGO、北原雅彦、GAMO、谷中敦)が合流。ハラミちゃんのリクエストから椎名林檎の「丸ノ内サディスティック」をセッション。亀田と河村はもちろんこの曲のオリジンメンバーだ。ホーンセクション全員とハラミちゃんの掛け合いも楽しい。

続いて山本拓夫のムーディーなサックスに誘われて登場したのはSIRUP。「感じたままに動いてください」と「LOOP」へ。山本のサックス、西村浩二のトランペットがSIRUPのボーカルと融和して、どこまでも続いていくかのようなネオ・ソウルの時間がおだやかに流れていった。

「昨日ちょっとだけ友達とスナックみたいなところで亀田さんの曲を歌って高めてきました(笑)。めちゃくちゃ楽しいです」。「音楽って人を選ばないものなんで。気づいたら体験して残ってる、みたいな原体験がもっと日本にあればいいのになと思っていたので、 そこに参加できるなんて本当に感謝です」。そう語ると2曲目に披露したのは「GO!!」。日常の中で夢中になるパワーをしっかりと歌い上げた。

ここで亀田がMC。「僕、今年、還暦になりました。いろんな人に出会うんですよ。この幸せな仲間と一緒に作る音楽を、みんなに届けたい。それが日比谷音楽祭だ」。「僕、今60なんて言いましたけど、私など若造でございます(笑)。今年、御年95歳を迎えられたクラリネットの北村英治さん!! そしてピアノ高浜和英さんです!!」

すぐにプレイ、かと思いきや、北村がおもむろにマイクを握る。「自分じゃまだ育ち盛りのつもりでおります。ありがたいことに皆さん支えてくれるんで、当分、あと5年や10年は吹けるかな?と思ってます(笑)……勝手に始めちゃっていいの?」と軽妙なトークで笑わせ、クラリネットではベニー・グッドマンの演奏で広く知られているナンバーの「Memories Of You」へ。

北村の優しくも哀愁を感じさせる音色にオーディエンスが聴き入っている。北村も、ソロのバトンを回された高浜も、その腕はさることながら、演奏と佇まいに品格がある。矍鑠(かくしゃく)というよりも率直に年齢を感じさせない。

さらに亀田がYOYOKA、スカパラホーンセクションを呼び込む。「YOYOKAは14歳。北村さん95歳でしょ。 歳の差81歳。こんなステージないよ、すごい」。曲はやはりベニー・グッドマンの演奏が有名な「Sing,Sing,Sing」。時にスリリングに、時に楽しく。河村とYOYOKAのドラム合戦を挟んで各パートの応酬が続くと北村がセンターでソロを披露……から急に高浜へソロを要求。「俺やるの?(笑)」という顔を見せながらも高浜が即座に応えてツボを押さえた素晴らしいソロを聴かせる。

ここでさらにもうひと盛り上がりと、井上芳雄、石丸幹二、遥海による日比谷ブロードウェイの面々が登場。インストゥルメンタルからボーカル入りバージョンとなって華やかに曲を閉めた。

「北村さんが育ち盛りなら僕らはまだ歩いていないんじゃないでしょうか」と井上がMCで笑わせると、三人が共演したミュージカル『ラグタイム』から「Wheels of a Dream」を披露する。20世紀初頭のニューヨークにおける人種問題を扱った物語からの一曲に、セントラルパークで世代と人種を超えて音楽を楽しむ「サマーステージ」に触発されて日比谷音楽祭を立ち上げたという亀田の言葉を思い出す。三人の朗々とした歌声は、まさしく野外劇場でブロードウェイミュージカルの一幕を体験しているような体験をもたらしてくれる。

さらに「僕たち誰も出たことないんですけど」と石丸が笑わせて、『ライオンキング』から「Circle of Life」へ。センターの遥海のパワフルなボーカルから三人の合唱へと繋がり、生命の雄大さと力強さを見事に歌い上げた。

ここで改めて亀田がMC。「一人、お呼びしてないアーティストがいますね。僕の青春、そして僕の全て、そして会場にいる皆さんの青春、みんなの全てだと思います。小田和正さん!!」。

オーディエンスのスタンディングオベーションに迎えられて小田和正がステージに登場。キーボードに着くと、歌い始めたのはオフコース’82年のナンバー「言葉にできない」。客席が一瞬で静寂に包まれ、小田の歌に聴き入る。〈la la la…… 言葉にできない〉。寄り添うように奏でられるストリングスとともに、染み入るような小田のキーボードと歌声が野音に響き渡った。

歌い終えた小田が亀田に「本当に呼んでくれてどうもありがとうございます。雨も大丈夫だったし(笑)」と語りかけると、恒例の挨拶「どーも!!」を客席に。会場のそこかしこから「小田さーん」という声援が飛んでくる。続いては’05年の小田のヒットシングル「たしかなこと」。“たしかなこと”、そして“たいせつなこと”を歌う小田の一言一言に強く胸を強く打たれたのはきっと筆者だけではなかったはずだ。

小田の出演が大きな悲願だったと語る亀田に小田が応える。「この年で、急に新しい仲間が出来たっていうイメージ。言わなかったけど(笑)。とても楽しみにしていました」。日比谷ブロードウェイを交えて、レコーディングでもギターを担当していた佐橋佳幸のカッティングから’91年の大ヒットナンバー「ラブ・ストーリーは突然に」を全員で披露。全てのパートが一体となって渾身のパフォーマンスを聴かせた。

最後は亀田とThe Music Park Orchestraの全員で「心を込めて気をおくります(笑)」と客席に挨拶。若手からレジェンド若手までが揃い、本当にここだけでしか観られないメニューを実現して、3つのHibiya Dream Sessionは大成功のうちに幕を閉じたのだった。

文:内田正樹