Playback 日比谷音楽祭2024
Report レポート
Hibiya Dream Session 1
ライブレポート(6/8)
定刻。夕暮れ前の日比谷公園大音楽堂(野音)のステージに亀田誠治が登場した。「みんな待ちきれない思いで今日を迎えたと思いますが、僕も待ちきれなかった」と、大きな笑顔で最初のアーティストを紹介する。「一緒に作品を作ってもう20年以上。 本当に大切な、大切な音楽仲間です。スピッツ!!」。
オーディエンスの大きな歓声に迎えられてスピッツが登場。1曲目は「チェリー」。草野マサムネの歌声と清々しい演奏が野音にこだまする。そこから「ルキンフォー」、「楓」を立て続けに披露。ステージ後方の木々の緑が風でかすかに揺れている。彼らの音楽が、いまこの瞬間、この日しか感じることの出来ない野音の情景を色鮮やかに描いていく。
ここで草野がMC。「スピッツとしてこのステージに立つのは何と21年ぶり。バンド(の演奏)自体も4か月ぶりぐらいなのでちょっとカタいんですけれど」「6月なのにすごいいい天気で。最近、雨男なんですけど、俺も負けるぐらい、今日は皆さんのパワーが強かった」と客席を和ませると、「優しいあの子」に。包み込むようなメロディに乗って、多くのオーディエンスが手拍子とともに身体を揺らす。
そして「1.2.3.4」のカウントから「ロビンソン」へ。やはり多くのオーディエンスがサビで腕を上げて左右に揺らし、スピッツの奏でる〈宇宙の風〉に乗る。さらに軽快なドラムから「美しい鰭」、最後は「魔法のコトバ」と、まさに“神セトリ”と言える7曲のステージングだった。
「ついに今日を迎えることが出来て、嬉しかったー!!」。亀田は「スーツ姿で日比谷音楽祭の協賛社を回った帰りになぜかスピッツとのレコーディングになることが多かった」という微笑ましいエピソードと共にスピッツ初出演の感慨を語る。
そこから、「日比谷中でいい音楽が鳴っている。日比谷音楽祭全体を楽しんでほしい」と呼びかけてステージに招いたのはAile The Shota。「日比谷音楽祭で歌わせていただける幸せを噛みしめながら。僕の大切な曲を、あなたに届くように歌います」と放たれたのは「Epilogue」。日比谷音楽祭スペシャルバンド“The Music Park Orchestra”のカラフルな演奏に彩られたその歌声からは、「今を生きる」リスナーに思いを届けたいという確かな意思が伝わってくる。
「日比谷、調子はどうですか?日本の音楽は好きですか?」と客席に呼びかけると、「みんなと踊るためのシティポップを持ってきた」と「AURORA TOKIO」を披露。この曲を楽しむロケーションとして野音は絶好過ぎる。佐橋佳幸のツボを押さえたギターカッティングも心地良く、ダンサブルな時間が流れていった。
続いての登場はキタニタツヤ。挨拶もそこそこに繰り出されたのは「化け猫」。先程までのムードが一転、ダークなライティングのなか、〈取り殺されても構わないよ〉と歌う軽快だがしかし妖艶なキタニのパフォーマンスがステージを支配する。
「いや、こんなお祭りを作ったんですよ。(亀田さん)すごいですね!」。「老若男女の皆さんが全身で音楽を楽しんでいる。すごいいいイベント」という朗らかなMCから、「青のすみか」へ。大ヒットアニメ「呪術廻戦 懐玉・玉折」のオープニングを飾った絶大な知名度を誇る一曲を清々しく歌い上げた。
スピッツの時間帯は夕暮れ模様だった野音に、気付けば夜の闇が下りている。「こういう時間の経過を感じられるのも野音の魅力」。「地道に続けていきます。皆さん応援してください」という亀田の言葉に観客が温かな拍手で答える。そして「日比谷音楽祭名物」という亀田の呼び込みで、常連・新妻聖子がステージに登場。
新妻は「お客様の楽しそうな顔に泣きそうになっちゃった。最高!」と笑顔で語ると、ミュージカル『レ・ミゼラブル』から「ON MY OWN」を披露。彼女の朗々とした歌声で、ステージ上の空気は一瞬にして劇場へと様変わり。このバラエティ感もまさに日比谷音楽祭。胸が苦しくなるような哀切を圧巻のロングトーンで歌い上げると、「私、初めて夜に外でこの歌を歌ったんですよ。すごい。戻ってこれない……」と暫し呆然。
何とか気持ちを立て直すと、「逆境に立ち向かう曲」という紹介から「Feeling Good」(ニーナ・シモン)へ。スモーキーかつジャジーなバンドの演奏に乗って新妻がパワフルなボーカルを轟かせる。最後は彼女のジャンプでフィニッシュ。堂々とした佇まいでゴージャスな一幕を届けた。
ほどなくバンドが希望を感じさせるファンファーレにも似た「Expert」のイントロを鳴らすと、ステージにKREVAが登場。〈どこに向かうかなんてのは後でわかるから進め〉と、観客一人一人に語りかけるような力強さと説得力でリリックを歌い上げていく。
「この日比谷全体で何個笑顔が生まれたか分かんないけど、思う存分楽しんで、楽しいなと思ったらクラウンドファンディングしてください。それが来年、再来年、何年後もまた笑顔を生むよ!?」と呼びかけると客席が拍手で応える。そして「ラストは俺の得意をやって帰るぜ」と「基準〜2019ver.〜」へ。The Music Park Orchestraのヘヴィな演奏をバックに、貫禄のラップスキルで畳み掛けたのだった。
ここで亀田がバンドメンバーを紹介するとアンコールに突入。KREVAが「この会場の皆さんのため“だけ”に歌います」と「くればいいのに feat.草野マサムネ from SPITZ」を歌い始める。
KREVAが「この歌作ったの、2007年でした。そこから片手で数えられるぐらいしか歌えていません。いろんな人と歌ってるんです。でもやっぱり本物が聴きてえだろ!?」とオーディエンスを煽る。「今日はもちろん来てくれます! 草野マサムネ!!」。オリジン二人の名デュエットを野音で再現というサプライズに客席が大いに沸く。最後はスピッツのメンバーとAile The Shota、キタニタツヤ、新妻聖子を再び呼び込んで、スピッツの「空も飛べるはず」を全員でプレイ。横一列に並び手を繋いで一礼。キャストとバンドを見送ると、最後に亀田はこんなメッセージをオーディエンスに伝えた。
「音楽をやっていると本当に素敵な仲間に会えます。もう、いい仲間しかいない。このいい仲間と一緒に作る音楽を、こうやってみんなと一緒に感動体験として自分の心の中にとっておくと、きっとこれから人生いろんなこと、地球もいろんなことがあったり……でもそういう中でもきっと、心の中に一つのあったかい、力強い種を持って生きていけるんじゃないかなと思って、僕はこの日比谷音楽祭を開催しています。たくさんの感動体験が本当に誰でも参加できるという形で今後とも続いていくように。皆さんまた遊びに来てください!!」
この上なくピースフルな空気のなか、初日のHibiya Dream Session 1は幕を閉じたのだった。
文:内田正樹