Playback 日比谷音楽祭2022

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日比谷音楽祭2022を終えて
実行委員長 亀田誠治 オフィシャルインタビュー

インタビュー・谷岡正浩(編集者・ライター)

3年ぶりに有観客での開催が実現した『日比谷音楽祭2022』を終えたばかりの実行委員長・亀田誠治にインタビュー。出演してくれたアーティストとのやり取りやそのなかで感じた信頼、そして今年実施した新しい取り組みやクラウドファンディングなどの資金についても包み隠さずお届けします。

有観客とオンラインで見えたイベントの全体像

――今年に関して言えば、何と言っても有観客で開催ができたこと、日比谷公園にお客さんが戻ってきたことが最大のトピックだったと思います。これまで2年間の経験も踏まえ、そこに関してはいかがでしたか?

亀田 お客さんの前で演奏ができるっていうことが、こんなにも尊い瞬間なんだなっていうのを再確認できました。いくら感染症対策のレギュレーションを厳密に行っているとは言え、当日が来るまで出演者やスタッフに何かがあったらどうしようっていう心配は正直拭えなかったんです。それでも、今年はすごくポジティブな気持ちで絶対に行けるっていう確信がありました。それは、自分もお客さんになって様々な会場でコンサートやミュージカルを観たりするなかで、一歩一歩進んで行っている、ひとつひとつ開いて行っているっていう手応えをエンタテインメントの現場から感じたので、最後まで気持ちは引き締めつつも、有観客開催ということに対してはブレずにスタッフ一丸となって進むことができました。それにしても、何て言うんですかね、あのお客さんがいる光景っていうのは。笑顔の花が咲いている場面や音楽に合わせてウェーブが起きる瞬間を体験するたびに涙が出そうになりました。

――お客さんの立場としても、実際に会場で生の音楽を体験することがいかに尊いものかを改めて体感として知ったのではないかと思います。

亀田 僕は常にピンチをチャンスに変えたいと思っているし、困難な状況のなかにも必ずそこにヒントや意味があるんじゃないかと思って、昨年は無観客の状態でオンラインの生配信をすごくこだわりをもってやったんですけど、それにしてもこんなに違うものか!というのを感じましたね。やっぱりお客さんとのリアルなコミュニケーションのなかにエンタテインメントの本質があるんだっていうことを痛感しました。コロナ禍をきっかけに配信のツールや技術が進歩したのはすごく喜ばしいことだし、今後も可能性を秘めたものだと思うんですけど、一方で、そこにお客さんがいるということでしか味わえない原点の喜びというものがどうしてもあるんですよね。

――その「原点の喜び」という部分は想像の範囲の外側にあるものというか、その場でないと感じ得ないものですよね。

亀田 そうなんですよね。それと今年に関しては世の中の雰囲気というんでしょうか、もちろんコロナも収束の兆しは見えてきたとは言え、まだまだ予断を許さない状況にあることは変わりませんし、戦争が起こったり……とにかく人の気持ちを閉じさせる重苦しい空気感が漂っていますよね。それを少しでも良い方向に変えるためにアーティストのポジティブな力を会場のお客さん、オンラインで観てくれているお客さん、『日比谷音楽祭2022』に参加してくれた全ての人たちに届けたいという気持ちが強くありました。「コロナに負けるな!」っていうような具体的なメッセージではなく、音楽そのもので伝えたいと思ったんですよね。だから、コラボレーションのひとつひとつも歌詞の意味から緻密に考えて決めていくというやり取りを、いつも以上にアーティストの皆さんと積み重ねていきました。

――昨年はオンライン生配信による無観客開催という初めての形で実施したわけですが、印象的だったのは、『日比谷音楽祭2021』を終えてすぐ亀田さんが「やって良かった」とおっしゃっていたことでした。そこにはもちろん言葉通りの意味として、どんな形であっても実施できたことに対する安堵感と達成感があったのと、もうひとつ、その先の『日比谷音楽祭2022』に続く手応えというものもあるように感じました。やはり昨年のオンラインでの経験があったからこその今年、という感覚はありますか?

亀田 去年、オンライン生配信という形でやらせていただいて、まずは届いているという手応えがあったんです。ステージに立つ僕たちは、何があっても表現を伝えていかなければいけない。それが画面越しになったとしても表現というものを残していかなければいけない、それをやめてはいけないという想いを強くしたんです。まるで先の見えない獣道を進んでいるような感じではあったのですが、でも去年やったからこそ今年の有観客開催で感じられるもの、見える風景というのが確実にあったんですよね。

――今年の特徴で言うと、有観客とオンラインのミックスで開催しました。何かその形が初めて『日比谷音楽祭』がフルキャパになったように感じたんですよね。それこそ“ボーダーレス”を体現した形のように思えました。

亀田 そこは本当に大切にしているところですね。オンライン生配信って、正直言えばすごく経費も手間もかかるんですよ。ライブ感を出すにはカメラもたくさん用意しなければいけないし、当然そのための人件費というのもあるし。さらに、オンラインを前提にしたタイムテーブルを組むのもまた大変だったり。でも、『日比谷音楽祭』が東京のど真ん中を超えて全国に広がっていくにはオンラインというものは欠かせないものだと思うんです。今年オンライン生配信で視聴してくれた人が、もしかしたら来年は実際に日比谷公園に行ってみようと思ってくれるかもしれない――そういう広がりと繋がりが、さらに次の『日比谷音楽祭』をつくっていくものになるのだと思います。

――日比谷という東京の地名を冠した音楽祭が、日本中に広がっていくというのは面白いですね。

亀田 今年は北海道の東川町が協賛して、ブースを出してくれたんです。東川町っていうのは、この少子高齢化社会にあって人口が少しずつ増加している日本でも数少ない地域なんですよ。クリエイターの人なんかも移住したりしていて、自然豊かでとても美しく、しかも面白いところなんです。そこで僕はピンときたんですよ。これは『日比谷音楽祭』が東京のイベントを超えてボーダーレスに循環していくひとつのきっかけになるんじゃないかなって。その思いを伝えたところ、東川町が『日比谷音楽祭』に協賛をしてくれて、自分たちの町の魅力を東京のど真ん中で伝えるという活動につながったんです。

――新しい町おこしのスタイルが『日比谷音楽祭』を通じて生まれていきそうですね。

亀田 そうなんですよ。音楽というものが間に入るだけで接着面積が広がるという感覚がありますね。それと今年に関して言うと、長野県の伊那市ミドリナ委員会の皆さんが小音楽堂(ONGAKUDOステージ)で合唱とオペラをピアノの演奏で聴かせてくれましたし、地域のボーダーレス化という広がり方がだんだん出来ていっています。そもそも『日比谷音楽祭』のステージには様々な音楽をやっている方々が登場してくれます。さまざまな企業も協賛してくださっています。そこに自治体があってもいいじゃないかっていうことに、これはきっとコロナ禍で動きが制限されていたからこそ導き出された発想として気づくことができたんですよね。これは今年の大きな収穫のひとつになりました。

音楽をはじめとした文化のある日常の風景をつくる

――もうひとつ、今年実施した新しい取り組みとして重要だったのが『Friday Night Acoustic』でした。日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)は現在、土日祝日のみ使用ができるというレギュレーションになっていますが、より多くのアーティストが野音でのコンサートを実施できるように平日開催の可能性を探るための第一歩として周辺施設に影響する音量を測定しながらコンサートをやるという実験的な取り組みでした。まずはどういった経緯で実施することになったのでしょうか?

亀田 昨年までは4月から10月までの土日祝日のみと野音を使用できる期間にも制限があったのですが、今年から試行的に11月から3月の土日祝日というところまで利用が拡大されるようになったんです。とは言え、アーティストはみんな野音でやりたいというのがありますから、倍率がすごく高いことには変わりないんですよ。そうすると、野音でできない人たちの方が多いんですよね。『日比谷音楽祭』のモデルとなったニューヨークのセントラルパークで開催されている『サマーステージ』もそうなんですけど、欧米では平日もたくさんのコンサートが公園をはじめ開放的な場所で開催されている。その開かれた文化をなんとか日比谷野音でも実現できないかなと思っていたところ、先ほど言った期間の拡大という話があり、実は……、ということで東京都の方から『日比谷音楽祭』のなかで平日開催に向けてのトライアルができないかという打診があったんです。まさに僕たちも音楽の未来のために、なんとか平日もできないかということを考えていたので、是非やらせてほしいと意思表明しました。野音というのは、皇居や省庁、企業、ホテル、商業施設に囲まれた環境にあるため、音楽ライブはこれまで土日祝日に限られていた。けれども、音響機器の発達によって、会場のどこを狙って音を出すとか、そういうことまで出来るようになっているので、今の機材や技術レベルで改めてどこまでが可能なのかを調べた方がいいということで試行実験を兼ねた今回の『Friday Night Acoustic』を開催することになりました。

――そうした実験的な試みは『日比谷音楽祭』じゃないとできなかったことかもしれませんよね。例えばアーティストの単独公演ではなかなか難しいでしょうから。

亀田 はい。まあでも、いろいろ課題も見えてきましたね。やっぱり最大値が固定された一定の音量制限のなかでのライブではダイナミズムが平坦になりがちなので、そういう環境にあっていかに演者もお客さんも楽しめる空間をつくれるのかということは、これからこちら側で検証していかないといけないところです。でも、この第一歩を『日比谷音楽祭』で踏み出せたことが本当に大きなことでした。

――『Friday Night Acoustic』は「アコースティック」という企画としての制限というかオブラートを用意してくれたおかげで観ている側としてはそれほど物足りなさというのは感じませんでした。だから、もしかしたらバンドで、はいどうぞ、という感じだったら、ん? とはなったかもしれないですね。

亀田 なるほど。しかし、仮にアコースティック編成や弾き語りに限るとなったとしても、野音の平日が開放されたということでは大前進なんですよ。

――確かにそうですね。例えば普段はラウドなバンドでやるアーティストが平日の野音ではアコースティックセットの特別編成によるライブを行うというスペシャルな価値観の持たせ方もできますよね。

亀田 そういったスペシャルな企画もそうですし、コロナ禍を通過して弾き語りやコンパクトなスタイルでライブをやる人たちが増えましたよね。多くを求めず芯を食った表現を大切にするするという素敵な姿勢です。それに僕たちは何より有観客で直接コミュニケーションが取れることの尊さを噛み締めたわけじゃないですか。だからどんな形でも生で音楽を届けること、しかもそれを野音のステージでできるとなったら、これからの音楽業界に与える影響はとてつもなく大きいものだと思います。だから今回『Friday Night Acoustic』でやったことは小さな一歩だけど大きな一歩だったと信じています。

――平日の会社帰りに日比谷公園を歩いていたら音楽が聴こえてきたっていうのは日常の風景としても素敵ですよね。

亀田 ほんとですよ! 何と言っても僕自身が、ニューヨークのセントラルパークで漏れ聴こえてきた音に誘われて行ってみたらフリーイベントの『サマーステージ』に出会えたので、そういう何気ないきっかけが一番大事なんですよね。やっぱり生活のなかに溶け込んでいくものをつくりたいと思っていますしね。そうだ! もしかしたら音楽だけではなくて平日にロングランのお芝居をやってもいいかもしれないですよね。

――いいですね。野外の風を感じながら観るお芝居。

亀田 不特定多数の人を何気なく受け止められるような、そういう場所、日常にしたいんですよね。そうやって文化に触れられる場所があるだけで、人って穏やかになれると思うし、争いごとも減るのではないかと信じています。

出演者一人ひとりがつながるストーリー

――改めて、『日比谷音楽祭』はフリー(無料)で楽しめるイベントです。このことを姿勢としてブレずに貫かれていますが、そこの大切さというのは回を重ねるごとに感じている部分でしょうか?

亀田 すでにカミングアウトしたんですけど、今年は資金難に陥りまして。そこで、絶対にクオリティを落とさずに徹底的なスリム化をするということにチャレンジしました。

――資金難の原因は何だったんですか?

亀田 一番大きかったのは、今までサポートしてくれていた企業の入れ替えがあったことでした。ただこれはコロナ禍ということを考えたらある程度は予測できていたことではあったんですけど、とは言え大きなサポートをしていただいていたところが抜けるというインパクトは埋め難いものでした。あと残念だったのが、助成金の谷間に入ってしまったんですよね。今までいただいていた文化事業としての助成金が3月までで終わって、次の開始時期が7月からで、だから4、5、6月の谷間に入ってしまった『日比谷音楽祭2022』は対象外になってしまったんです。でも、例えば先ほども触れた東川町との取り組みだったり、今までになかったような展開が生まれたりしたというのも今年の特徴でした。クラウドファンディングは、目標額を去年の達成額が約1千万円だったのですが、今年は目標金額を2千万円にして、なんと、クラウドファンディング終了1日前に目標金額を達成できたんです! クラウドファンディングに参加してくれた皆さん、本当にありがとうございます。なんかね、『日比谷音楽祭』って出演者もトップアーティストが多いし、亀田誠治が旗を振ってやっているし、協賛企業も多いし、日比谷の街ってきらびやかだし、無料って言っても余裕でやってるんでしょっていうイメージがあるみたいなんですよ、どうも(笑)。でも、そんなこと全然なくって!だから開催が迫った5月の末に、正直に今年は資金難でっていうこともカミングアウトしたし、会場のなかに支援箱っていうものを設けさせてもらったり、苦しいなかでいろいろな手を繰り出しながらやっていきましたが、なんとか活路を見出せるところまでは持ってきたので、これを来年に生かせればと思いますね。

――協賛企業の入れ替えがあったり、助成金の期間から外れたりと様々な難しい局面に立たされたということですが、そこで浮き彫りになるのは、それでもフリー(無料)での開催にこだわるんだというところだと思います。それはやっぱり『日比谷音楽祭』が音楽体験のきっかけであること、音楽消費行動の入り口になること、そうして音楽に触れた人たちが後々プロのミュージシャンになるかもしれない、あるいはサブスクで音楽を聴いたり、CDを買ったり、コンサートに行ったり、音楽に対してお金を払うようになるかもしれない。そうした音楽における幸福な循環が『日比谷音楽祭』の会場の中で可視化されているように感じたんですよね。

亀田 そこが有観客開催でできたことの一番の収穫でした。『日比谷音楽祭』がやろうとしている「新しい音楽の循環」というのはこういうことかというのが会場にいるだけでわかってもらえたと思うんですよね。楽器体験のブースで子供がウクレレに絵を描き始めた!とか、パパが夢中でドラムを叩き始めた!とかね。僕も音楽の最初の入り口は、家で音楽が鳴っていたり、誰かに素敵な音楽を教えてもらったりっていうことでしたから、やっぱり『日比谷音楽祭』がフリーであるからこそ実現できる役割というのには強くこだわりたいんですよね。フリーイベントの先にあるものって、“ボーダーレス”とか“循環”とかいろいろ言葉にすると簡単なんだけど、手ぶらで何の先入観もないところでその場でその時に感じた“何か”が、人生を豊かに彩るんですよね。その“何か”が『日比谷音楽祭』にはたくさん詰まっているんです。

――野音で行われる「Hibiya Dream Session」のラインナップはまさにそうした“何か”を感じる瞬間に満ち溢れていますよね。

亀田 だって、例えば「Hibiya Dream Session 2」(6/4)では、やのとあがつま(矢野顕子&上妻宏光)から始まって、EXILE SHOKICHIさんとミッキー吉野さんとの世代を超えたコラボがあって、そしてMIYAVIが出てきたかと思ったら、日比谷ブロードウェイ(井上芳雄・佐藤隆紀(LE VELVETS)・木下晴香)、さらに石川さゆりさんと続くわけですからね。シメは劇団四季(岡本瑞恵)のアナ雪(『アナと雪の女王』主題歌「レット・イット・ゴー~ありのままで~」)ですもの。こんなダイナミズムのあるラインナップが実現するのは、フリーであることにこだわっているからこそであり、そこに出演してくださるアーティストの皆さんが賛同してくれるからなんですよね。

――「Hibiya Dream Session 1」のオープニングがFuture Music Power(佐藤ひらり、RIO、YOYOKA)による『今日から、ここから 2022』だったというのは亀田さんのなかではもうこれしかないという感じで決まっていたのでしょうか?

亀田 Future Music Powerと命名した3人のアーティストによるヤングセッションから始めるというのはわりと早い段階から決めていました。でも『今日から、ここから』をやるというのはギリギリになってでしたね。いろいろと試行錯誤していくうちに辿り着いた結論でした。未だに終わりの見えないコロナ禍、ウクライナでの戦争。やっぱり今ココ、今日からここから歩き出すしかないんですよ。去年、いきものがかりやLittle Glee Monster、日比谷ブロードウェイの井上芳雄さんや、島田歌穂さん、中川晃教さん、そしてKREVAとオールラインナップで豪華にやった『今日から、ここから』という楽曲を、シンプルにネクスト・パワーのアーティストたちと一緒にパフォーマンスすることに意味があるんじゃないかと思ったんですよね。

――確かに昨年からの地続き感もありましたし、『日比谷音楽祭』をきっかけに生まれた曲に新たな息吹が吹き込まれたような新鮮な風も感じられました。それはやはりスタッフの皆さんも含めて、亀田さんという中心軸があるからこそ描ける絵なのではないかなと思いました。

亀田 ありがとうございます。これはよく言っているんですけど、『日比谷音楽祭』が終わってから次の年の『日比谷音楽祭』が始まるまでの全亀田を投入していますと。だから全てが僕のフィルターを通して出来上がっているというのが重要な部分で、それは今年も一切ブレずにできたという実感はありますね。だから新しい才能との出会いなんかがあると、すぐに『日比谷音楽祭』にどうかな?って思います(笑)。今年で言うと、KOTONOHAステージ(東京ミッドタウン日比谷・パークビューガーデン)に出演してもらったシンガーソングライターの朝倉さやさんなんかがそうでした。最初に彼女の歌を聴いたときに、すっげー!って感動しちゃって。

――「Hibiya Dream Session 3」に出演したDREAMS COME TRUEも亀田さんを通じたストーリーの上にあるブッキングですよね。ドリカムは初年度から協賛という形で『日比谷音楽祭』を支援していて、それがようやくコロナ禍を経て出演という形に結びついた。だから、ビッグアーティストが関係性だけでいきなりポーンと出てくるわけではないということも重要ですよね。

亀田 ほんとですよ。よく言ってくれました(笑)。5年がかりで実現しましたから。おっしゃっていただいたように、一人ひとりのアーティストに出演する理由とストーリーがあって、アーティストの方にも『日比谷音楽祭』に出演したいっていうモチベーションがしっかりある、そこが相思相愛であるということが何より重要なんですよね。だから日比谷音楽祭はプロモーション目的では使えないライブイベントで、それにも関わらず出演してくれるアーティストの皆さんの良心を感じます。だって、セットリストも少なくとも「Hibiya Dream Session」に関しては全て僕との話し合いで決めていきますから。「Hibiya Dream Session 3」に出演してくれた藤井フミヤさんも、まず山弦(小倉博和・佐橋佳幸)がいるから『TRUE LOVE』をやりたいねってすぐ決まって(※小倉博和と佐橋佳幸は『TRUE LOVE』のレコーディングに参加していたオリジナル・メンバー)、その次何やりましょうか?って言ったら、チェッカーズどう? 夜だから『星屑のステージ』だねって。で、『白い雲のように』を出演者みんなで歌ったのは、最後の最後に出てきたアイデアだったんですよ。イベントを締める曲っていうのが欲しいなってずっと思っていて、『白い雲のように』ってまずは“自由”を歌っているからフリーでボーダーレスを標榜する『日比谷音楽祭』にはピッタリだし、誰もが知っている曲ですよね。歌詞に目を向けると、何気ない言葉ではあるんですけど、その中にきちんとしたメッセージが詰まっているんですよ。それが戦争とかコロナとか、どこか重たい空気が漂っているなかで、あえてそのことには触れずとも音楽としてその重苦しい雰囲気を吹き飛ばしてくれる楽曲だなと感じたんです。

――確かに。言われてみると、フォークソングなどで歌い継がれている反戦歌のような雰囲気がどことなくありますね。そういえばフミヤさんのステージの前に山弦がPete Seeger(ピート・シーガー)の『花はどこへ行った』をやっていたのにもつながるような気がしてきました。

亀田 『花はどこへ行った』は元はウクライナ民謡なんです。そんなことも話し合いながら決めました。面白いこぼれ話がひとつあるんですけど、『白い雲のように』をオールラインナップでやるにあたって、KREVAどうしよっかなって思ったんですよ。と言うのも、去年は『今日から、ここから』でラップのパートをカウンターで入れる形で参加してくれたんですよね。だから今年もそういう感じでラップをつけてくれない?ってお願いしたら、「亀田さん何を言ってんの」と。「『TRUE LOVE』は俺のカラオケのオハコだよ。フミヤさんの曲だったら俺はちゃんと歌うから」って言ったんですよ。単にオールラインナップで出演者が揃って歌うのではなく、きちんとアーティスト同士のリスペクトが見えるというのがすごくいいなと思いました。

理念と理想を追求していく健全なサイクルが生まれる場所

――来年、野音が100周年を迎えるということで記念事業が実施されますが、その実行委員長に亀田さんが就任されました。

亀田 はい。『日比谷野音100周年記念事業』の一環で来年4月からさまざまなイベントが行われていく予定です。これもやはり『日比谷音楽祭』をやっているからであり、これからも『日比谷音楽祭』をやっていくからこそ、野音の100周年事業にも携わりたいと思ったんですよね。実行委員のメンバーには様々な経歴の方々にご参加いただいているのですが、次の100年を担える信頼できる方たちにお願いしました。単に豪華なメンバーだね、ということでは決してなく、それぞれがアイデアを出して自分たちが野音でやりたいと思うことをやってほしいとお願いしています。

――なるほど。そういうふうにいろんな活動につながっていくのも面白いですね。『日比谷音楽祭』で芽吹いたもののなかで来年につなげていきたいものはたくさんあると思うのですが、特にこれはしっかりと継続していきたいと思うものは何ですか?

亀田 間違いなく有観客ですね。いろんなことが油断できない事態になってきているので、何のきっかけで何が起こるかわからないというなかで、とにかく有観客での開催は屈託のない未来を信じて来年も絶対に実現したいです。そして、どんな形でもいいからオンラインで日本全国に届けていく、もっと言えば世界に届けていく仕組みをつくれればいいなと、これは長い目で見た課題として認識しています。ここまでやって来て感じるのは、やっぱり『日比谷音楽祭』というのは、いたずらに規模を拡大していくのではなくて、理念と理想(クオリティ)を追求していく場だなというのは肝に銘じています。なので、どんなに僕に甘い声をかけてもらったとしても(笑)、無料でやっていくし、節度のある規模感でやっていきたいなと思っています。野音のキャパが約3,000人なんですけど、すごく身の丈にあった健全な感じがするんです。そのなかだからこそ表現できる音楽、届けることのできる音楽の力があるんだと思います。

――1回目の『日比谷音楽祭2019』の「Hibiya Dream Session 2」に出演していたCreepy Nutsが、その時とは比べものにならないくらい大きな存在感になって帰って来たのがKADANステージで行われていた『オールナイトニッポン×Creepy Nuts スペシャルトーク in 日比谷音楽祭〜Creepy Nutsと「音楽」と「ラジオ」』(6/4)というトークイベントだったというのが最高でした(笑)。そんな何かもを超えたような錦の飾り方があるのかよと。

亀田 そうですよね(笑)。いい循環ですよね(笑)。あとね、小さなニュースかもしれないんですけど、HIROBAステージ(東京ミッドタウン日比谷・日比谷ステップ広場)に出てくれた、花耶さんは武部聡志さんのプロデュースで今年1月にデビューした新人アーティストなんですけど、2019年に開催された1回目の『日比谷音楽祭2019』をお客さんとして観ていて、この音楽祭に出たいと思ってくれて、いろんなオーディションやコンテストに出ているうちに実際に今年出演が叶ったんです。そういう循環がすでに生まれていて、地域との循環もそうですし、これからどんな新しい循環が『日比谷音楽祭』をきっかけに誕生するのか僕自身も本当に楽しみにしていますし、それこそが僕のやりたいことですね。