Playback 日比谷音楽祭2022

- Report -

『日比谷音楽祭』の“持続可能性”の真ん中にあるもの
Hibiya Dream Session 3 /
6月5日(日) YAONステージ(日比谷公園大音楽堂)

谷岡正浩(編集者・ライター)

最終日のラストを飾る“Hibiya Dream Session 3”は、なんとこのバンドから。DREAMS COME TRUEがYAONステージに舞い降りた。中村正人に続いて吉田美和が現れた瞬間、会場にはどよめきがさざ波のように起こる。まるで幻の実在を初めて確認したかのような驚きが、だんだん現実感を伴った興奮と喜びに変わっていく。「次のせ〜の!で - ON THE GREEN HILL - DCT VERSION」の軽快なイントロが鳴り響くと、自然とハンドクラップが沸き起こる。緑の絨毯が目の前に広がっていくような開放感と疾走感の心地いいナンバーが、野音の雰囲気とこれ以上ないほどマッチしている。

この日の彼らの編成はドラムやホーン隊のいない、言わば特別バージョンといったものだった。昨年10月から4月にかけて行っていたツアーもほぼ同様の編成で行っていたが、これはコロナ禍の状況下で何があっても対応できるようにという、彼らの“音楽を止めない”という確固たる姿勢を反映した形だ。「あなたとトゥラッタッタ♪」に続いて披露したのは「ONE YESTERDAY - DCT MIX -」。マーチングバンドのリズムが軽やかな前者から、グッと深い心の領域に潜るような後者まで、振り幅の広い選曲でDREAMS COME TRUEのめくるめく音楽世界が目の前に立ち現れていく。

なかでも後半の3曲が圧巻だった。「G」「YES AND NO」はコロナになった端緒の2020年にリリースされた楽曲であり、彼らのこの2年間を牽引してきた2曲だ。さらにラストに披露した「その先へ」と合わせると、ひとつのメッセージを伝えてくれているように感じた。

それは2年越しに有観客で開催ができた『日比谷音楽祭』に対して、そしてある面では不自由な生活を強いられてきた全ての人たちへ、それでも歩み続けたからこそここにいるんだよ、だからもう一歩先へ――。亀田誠治実行委員長の思いや熱意に初年度から協賛という形でも共感を示していたDREAMS COME TRUE。あえて言わせてもらえれば、彼らが『日比谷音楽祭』に出演したのはサプライズではない。音楽が導いた幸福な関係が可能にしたものだ。全ての楽曲をパフォーマンスし終わった吉田美和が崩れ落ちるように中村正人に寄り掛かった姿は、このステージを守ってきた『日比谷音楽祭』に関わる全員に向けての最高のアンサーに映った。“その先”が少し見えた気がした。

ここからはThe Music Park Orchestraをハウスバンドに様々なアーティストがパフォーマンス。まずは、KREVAが登場。印象的なイントロは「アグレッシ部 ~2019 Ver.~」だ。冒頭のリリックを〈オンライン オフライン 会場 絶対 行けるなら絶対行っとけ〉と『日比谷音楽祭2022』仕様に変えて盛り上げる。
「これまでもそうだし、これからもなんだけど、歌うまい人、演奏すごい人が目白押しなんですよ。そんな中、俺がここに立ててるのはメッセージ、言葉を届けるのが俺の仕事のひとつだと思うんで」というKREVAがチョイスしたのは「変えられるのは未来だけ」。コロナ禍の状況に真摯に向き合って制作したアルバム『LOOP END / LOOP START』に収録されているこの楽曲は、タイトル通り、進んでいくことでしかどこかへは辿り着けないという、決意というよりも前向きな気づきを表現したものだ。それゆえに、つまりリリックが大袈裟ではない分、自然と一歩目が出るような感覚になる。

「ジャンルを超えて共感した」と亀田が紹介したのは新時代のピアニストとして注目を集める角野隼斗。披露したのはFranz Liszt(フランツ・リスト)の「ハンガリー狂詩曲第2番(抜粋)」だ。途中でトイピアノを用いたりと、独創的な演奏でオーディエンスを釘付けにする。
「耳が幸せ」(亀田誠治)
「こんな素敵な場所でクラシックを弾くとは思わなかったです。本当に幸せです」(角野隼斗)
ヴァイオリニストのマレー飛鳥が加わりセッションしたのは、George Gershwin(ジョージ・ガーシュウィン)の「I Got Rhythm」。ジャズのスタンダードナンバーとして今でも愛されている曲で、一度は聴いたことのある楽曲だ。

『日比谷音楽祭』の特徴は、ボーダーレスにいろんなジャンルの音楽を楽しめることだ。しかし、ただ単にジャンルレスの音楽を集めた見本市のようなフェスではない。そこには人と人とのつながりが存在している。亀田実行委員長がよく言う「音楽仲間」というのがそれだ。広がり続け、深まり続ける音楽の絆が『日比谷音楽祭』の根本理念である「新しい音楽の循環」を成立させ得る核にあるものなのではないかと思った。じゃないと、こんなに心の弾む「I Got Rhythm」にはならないはずだ。音楽仲間との関係がリズムとなって、いろんなメロディに展開していく――まるで音楽そのもののような持続可能なスパイラルだ。

次に登場したのは、シンガーソングライターの半﨑美子。「たくさんの人にというよりも、たった一人の人に届けたいという想いで書きました」と言ってパフォーマンスしたのは「サクラ〜卒業できなかった君へ〜」。彼女のメジャー1stシングルにして、亀田が編曲とプロデュースを担当した曲でもある。透き通るなかに芯の強さのある彼女の声が陽の落ちた野音にどこまでもまっすぐに響く。次に亀田が呼び込んだのは、立教大学手話サークル「Hand Shape」の皆さん。今、もう一度きちんと届けたいという楽曲「地球へ」を手話うたとのコラボレーションで披露した。手話はもちろん耳が不自由な人にとって大切なコミュニケーション手段だ。ただ、手話うたは障害がない人にとっても言葉が可視化されていく過程が見え、ひとつのパフォーマンスとして楽しむことができる。コミュニケーションツールを超えて、耳の不自由な人とそうじゃない人がひとつになれるステージは、まさにボーダーレスだ。〈共に生きるために〉という最後の一節が心に染みた。

The Music Park Orchestraのメンバーである佐橋佳幸と盟友の小倉博和の凄腕ギタリスト2人から成るギターデュオ・山弦は、昨年リリースしたアルバム『TOKYO MUNCH』にも収録されているPete Seeger(ピート・シーガー)の「花はどこへ行った」をインストゥルメンタルで聴かせた。この曲は反戦フォークソングの草分けであり、Peter, Paul and Mary(ピーター・ポール&マリー)や、日本では加藤登紀子をはじめ、YMOがカバーしたことでも知られている。山弦がギター2本で紡ぐ「花はどこへ行った」は美しさのなかに乾いた風のような虚しさが吹き抜けていき、実に雄弁に曲の世界を表現していた。ここでマレー飛鳥を呼び込み、The Music Park Orchestraと共に山弦オリジナル楽曲「RODEO KING」を披露した。このステージ上で演奏をしているミュージシャンたちは、日本でも有数のベテランプレイヤーたちだ。ただ、彼らが演奏を楽しんでいる顔は、初めてバンドを組んで音を出した中学生とほとんど変わらないのではないだろうか。いつだってあの頃に戻れるのが音楽だし、少し先の未来へ背中を押してくれるのも音楽だ。きっとそれを“マジック”と呼ぶのだろう。

ギタリストの小倉博和がそのまま残ったのにはワケがある。『日比谷音楽祭2022』のトリを務めるのは藤井フミヤ。「挨拶がわりに歌います」と言って披露したのは「TRUE LOVE」。実は、この曲のレコーディングメンバーだったのが、佐橋佳幸と小倉博和だった。
曲終わり、藤井フミヤはこう言った。
「今日の『TRUE LOVE』はすごく特別で。佐橋くんとオグちゃんがオリジナルのギターなんです。だから本物に近い形でできました」(藤井フミヤ)

小倉博和を送り出し、藤井が「このバンドで今日は懐かしい曲をやりたいと思います」と言うとカウントが入り、大きな歓声が上がる。チェッカーズの「星屑のステージ」だ。ゆったりとしたグルーヴに藤井フミヤの艶のあるボーカルが映える。

「めっちゃカッコいいチェッカーズだった。いやー、素晴らしかった。カッコつけやすかった(笑)」と藤井は、The Music Park Orchestraの演奏を絶賛。オーディエンスもまさかこんな贅沢なコラボレーションが観られるとは!といつまでも拍手をする手を止めない。

ここで、KREVA、角野隼斗、半﨑美子、小倉博和、マレー飛鳥を再びステージに呼び込み最後の曲のセッションに。「リュックサックを持ってきてたんですけどやめました」とKREVAがヒントを出したその曲は、「白い雲のように」。バックパックを背負って世界中を放浪する旅人のテーマソングとして、自由な心を歌った曲だ。藤井フミヤを中心にKREVA、半﨑美子がボーカルに加わり、ソロでは角野隼斗がピアニカ、マレー飛鳥がヴァイオリンで参加した。鳴り止まない拍手の音が、オーディエンスがそこにいることが、今年の『日比谷音楽祭』の全てを物語っていた。またここから、その先へ向けた次の一歩が始まる。

Hibiya Dream Session 3 の見逃し配信は、6月19日(日)~6月26日(日)の間、U-NEXTにてご視聴いただけます。
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