Playback 日比谷音楽祭2025

Report レポート

Hibiya Dream Session 3
ライブレポート(6/1)

「あっという間に2日間経っちゃった!」。ステージに登場した亀田誠治はそう言うと早くも名残惜しそうな苦笑を浮かべる。「みんなで最後の野音のライブ、目一杯盛り上がりましょう! 後ろ(舞台袖)のアーティストのみなさんも、めっちゃ盛り上がってるから!」6月1日18時45分。いよいよ今年最後のHibiya Dream Sessionがはじまった。

1組目は、松尾レミと亀本寛貴の2人からなるGLIM SPANKY。亀本のギターが轟音を上げる。「こんばんは、GLIM SPANKYです!」(松尾)。はじまったのは『怒りをくれよ』。The Music Park Orchestraの河村“カースケ”智康とYOYOKAのツインドラムがキレの良いタイトなビートを叩き出す。松尾のハスキーなシャウトが夕暮れの野音をつんざく。冒頭からピークのようにエネルギッシュなステージが展開された。

ここでYOYOKAが退場。松尾は、「亀田さんとは私たちが大学時代から子亀祭を通して」と、デビュー前に端を発していたという亀田との交流を語り、「亀田さんとレコーディングした曲をもう一曲」と『大人になったら』へ。リッケンバッカーを抱えた松尾の熱いボーカルが、亀本の咆哮のようなレスポールカスタムのソロが、夜を迎えた野音に高らかに鳴り響いた。

GLIM SPANKYがステージを後にすると、亀田は、先ほど松尾がMCで触れた“子亀祭”についての回想を語りはじめる。これは亀田が自身のオフィシャルサイト内で展開していたコンテンツから発展し、かつて若手をフックアップするために開催されていたイベントだった。「それから『亀の恩返し』(亀田主宰のフェス)があって。思えば10何年前から、僕がやりたかったことってずっと変わっていなかったのかもしれない」と、おだやかな微笑みで音楽への思いを語る亀田だった。

次に呼び込まれたのは、今年2月、アルバム『Triveni』で第67回グラミー賞を受賞したチェリストのEru Matsumoto。風雲急を告げるようなチェロの音色ではじまったのは『Vivaldi's Storm』。Eru Matsumoto の超絶テクニカルのチェロの旋律のなか、The Music Park Orchestraの面々も全集中のパフォーマンスを繰り広げた。

ここで再びYOYOKAが合流。Eru Matsumotoは「日本の音楽フェスでの演奏は今回が初めて。それがこの特別な日比谷音楽祭で、しかもこんな豪華過ぎるバンドで、うれしいです」と語ると、「『Triveni』は音楽が心と体にもたらす癒しの力を、感覚だけではなく科学的な根拠を持って検証できないかという思いから始めたプロジェクト。音楽が皆様の心にそっと寄り添うように」と『Triveni』収録の『Seeking Shakti』と『Aether's Serenade』を亀田がアレンジしたこの日だけの日比谷音楽祭2025バージョンで披露。気付けば夜を迎えていた野音に、オーディエンスを包み込むようなEru Matsumotoの世界が展開された。実は、Eru MatsumotoとYOYOKAはこの日のためにロサンゼルスから駆けつけたのだという。「日比谷音楽祭、広がっているじゃないんでしょうか」と感謝と喜びを語る亀田だった。

そして『Wonderland」のイントロが流れると登場したのはiri。ダンサブルなビートのなか、ヒップホップやR&Bが基調に感じられる心地よいフロウとやるせない情景を歌うサビに、オーディエンスが身体を揺らして応える。

彼女はギターを抱えると、「こんばんは、iriです」と、『Wonderland』のアンニュイなムードとは対象的な朗らかな表情でオーディエンスに挨拶をし、亀田と笑顔を交わす。「コロナ禍にもう会えなくなった人や大切な人を思って作った曲です」と、『はじまりの日』」へ。自ら爪弾くギターのアルペジオとともに、前述のMCの通り、大切な存在へと伝えるように、一言一言を大切に、丁寧に歌い上げる。

「今日は本当にありがとうございました」と、最後は『Sparkle』で再びR&B的なダンサブルなビートが会場を染め上げる。フロアライクなフレーズとクールだがしかしエモーショナルなボーカルでオーディエンスの身体をさらに大きく揺らせるとiriは笑顔でステージを後にした。

「iriさんはいつも落ち着いている。いま、どんな曲を届けたいかを話し合ったとき、僕から『はじまりの日』をリクエストしました」と亀田。「続いてのアーティストともそうやって話し合いました。同世代で大切な仲間です」と真心ブラザーズを紹介。「真心ブラザーズでーす。よろしくお願いしまーす」というYO-KINGの挨拶から桜井秀俊がギターをストロークでかき鳴らして『どか〜ん』へ。

否が応でもノリノリになってしまう傑作ナンバーに、多くのオーディエンスが両腕を上げて頭上で手拍子をしている。亀田も、バンドの面々も、自然と笑顔でプレイしているのが面白い。「最後(アウトロからのキメ)、いつもよりもしつこかった」と亀田が顔を見合わせて爆笑をしたYO-KINGが、「野音にピッタリの曲、『空にまいあがれ』!!」と叫んで同曲へ。YO-KINGの勢いのある歌とハープ、桜井のブルースロックのツボを押さえたようなフレーズに客席は引き続きノリノリに。

MCでは「デビューの日にここで(ライブを)やらせてもらった」(桜井)。「ぜ〜たく。バブル世代!バンドブーム!!」(YO-KING)と笑わせ、「野音最後の年に亀田さんと最高のメンバーと立てるなんて最高」(YO-KING)と亀田と喜びを分かち合い、名曲『ENDLESS SUMMER NUDE』へ。曲目が告げられると客席から歓声が上がる。この上なくグルービーな演奏のなか、駆け巡る夏の切なさを誰もが見届けようと腕を振り、身体を揺らし踊っていた。

「いつも機嫌が良いYO-KINGさんに『亀田さんは僕を超える上機嫌だ』と言われた。面白いもので上機嫌が2人かち合うと更にアッパーになる」と、ラジオ共演時の微笑ましいエピソードを亀田が披露する。「日比谷音楽祭をピースフルな場所にしたいと思いませんか?」という振りから呼び込まれたのは、スパンコールも眩しい純白のタキシードスーツ姿の氷川きよし+KIINA.。ステージ後方のドラムにはYOYOKAの姿も。曲は、『きよしのズンドコ節』!! 

〈♬〜ズン ズンズン ズンドコ〉「きよし!!」。セットリストが事前公開されていたわけじゃないのに練習済みのようなコール&レスポンスの盛り上がり。流石、“国民的知名度”と言えるヒット曲だ。それにしても、今更ながら……歌が上手い! はつらつとした発声と破格のピッチに誰もがノリノリで楽しく酔いしれていたように映った。

客席からの割れんばかりの大歓声に「ものすごくうれしい!イエ~イッ!!」と手を振って応える氷川きよし+KIINA.。「何かアメリカにきたみたいな気分。皆さんノリがいから。最高!世界一!!」と喜びをあらわにすると、「5歳から歌っていた」というエピソードを亀田と語り合うと、「初めて人前で歌った、この歌があったから歌手になろうという気持ちが芽生えて、心に『赤いスイートピー』が咲きました」と、2曲目は松田聖子の名曲『赤いスイートピー』のカバーを披露。今年5月、亀田のアレンジでデジタル配信(※氷川きよし名義)された自身の原点とも言える曲を、伸びやかに歌い上げた。

「心に赤い花が咲きました。緊張しちゃった。こういう素晴らしいフェスなんですね。もう15年?」(氷川きよし+KIINA.)。「まだ7年です。よちよちよ?」(亀田)。2人のほっこりトークが会場を和ませる。そして、最後の曲は、未リリースの新曲『白睡蓮』。亀田が作曲とプロデュースを手掛けたという、この日が本邦初公開の新曲だ。生きていく上での痛みを分かち合った人との来世での再会を願う歌詞が切々と歌われる。切なくもリリースが待ち遠しい新曲の余韻を残して、氷川きよし+KIINA.がステージを後にした。

「今日はもう一人ゲストを呼んでいます。最後に絶対来てもらいたいと思って来てもらいました。甲本ヒロト!!」。亀田の呼び込みで甲本ヒロトが登場。「よろしくお願いしまーす!!」の挨拶から鳴らされた曲は、『涙くんさよなら』。浜口庫之助が作詞/作曲し、1965年の坂本九による歌唱以来、長きに渡って愛されている名曲を、ヒロトが、あの声で、あの跳ねるような動きで、あの歌い方で、歌う。

既報の通り、日比谷公園大音楽堂は2025年10月1日(水)から休館し、建て替えに向けた再整備工事がはじまる。開設は1923年。関東大震災や太平洋戦争を経験し、1954年の改修と1983年の改築を経て、様々な音楽の名シーンをオーディエンスと育んできた“3代目野音”とも、今年で暫しの別れとなる。

〈♬〜また逢う日〜ま〜で〜!!〉。甲本のそれは、初回開催からのホームグラウンドだった野音に向けた、日比谷音楽祭からの感謝と惜別、そしていつの日かの再会の誓いをまとめて代弁したような、ちょっと悲しいけど、明るく、清々しい、御礼と挨拶のようなパフォーマンスだった。

最後に改めて亀田とThe Music Park Orchestraのメンバーがステージに並んで挨拶。亀田は、「野音も、よろこんでいるんじゃないのかなと思います!」「これからも東京の真ん中から音楽を届けていきたいと、心から思った2日間です」と、今後も無料開催を続けられるように、改めてクラウドファンディングへの支援(~6月25日まで)を呼びかけた。そして、日比谷音楽祭2026を2026年5月30日(土)・31日(日)、従来の日比谷公園や東京ミッドタウン日比谷に加えて、野音の代わりはキャパ5000人級の東京国際フォーラム ホールAを使用して開催するというサプライズ発表が伝えられた。

「来年も楽しみにしていてください!!」。亀田は笑顔で来年の開催を誓った。その言葉通り、ますますパワーアップする日比谷音楽祭2026に期待したい。

文:内田正樹