Playback 日比谷音楽祭2025

Report レポート

Hibiya Dream Session 1
ライブレポート(5/31)

5月31日。少しの風と霧雨のなか迎えたHibiya Dream Session 1の定刻、日比谷公園大音楽堂(野音)のステージに亀田誠治とスペシャルバンド“The Music Park Orchestra”(亀田誠治(Ba)、河村"カースケ"智康(Dr)、佐橋佳幸(Gt)、斎藤有太(Key)、皆川真人(Key)、四家卯大(Vc)、田島朗子(Vl)、山本拓夫(Sax)、西村浩二(Tp)、小田原 ODY 友洋(Cho))の面々が登場。亀田が「ちょっと雨が降っているけど、熱い演奏で(雨雲を)吹き飛ばしてくれると思います」とimaseを呼び込む。

トップバッターのファンファーレよろしくホーンが高らかに響き渡るなか、軽快なリズムにのってimaseが登場。「楽しんでいきましょう、日比谷音楽祭!」という呼び掛けから、『Happy Order?』へ。もはや彼のシグネチャーとも言えるファルセットを駆使したシルキーボイスでオーディエンスを牽引する。

「野音でのライブは初。こんなにたくさんのお客さんの前で歌えてすごくうれしいです。ありがとうございます!」と、観客とバンドメンバーへの感謝を語ると、彼の代表曲とも言える『NIGHT DANCER』へ。多くのオーディエンスが身体を、腕を左右に振る。「野音サイコーです」、「ちょうど雨止みましたよね? そんな時にピッタリの曲を」(imase)と『Pale Rain』へ。PUNPEEを呼び込み、爽やかなデュエットを披露した。

ここからPUNPEEのステージに。「今日はゆったり楽しんでいきましょう」と『タイムマシーンにのって』へ。ステージを左右に練り歩き、一人ひとりの心に言葉を刻み込むようにリリックを歌っていく。不可逆な時間の尊さを歌う。「約1世紀、この場所で、たくさんの人が抵抗して、喧嘩して、文学に励んで、青春を謳歌してきたことでしょう。時よ、流れろ!」(PUNPEE)と野音への思いを言葉にした。

「自分がお世話になっているヒップホップやラップのカルチャーでも野音は特別な場所」と1996年のイベント「さんピンCAMP」の思い出に触れつつ、曲は『お嫁においで2015』へ。加山雄三の名曲をPUNPEE流に仕立てた否が応でも身体が動くナンバーだ。途中、バンドメンバーのソロ回しを交えつつ、客席をコージーなムードでひとつにしたPUNPEEだった。

続いては常連・日比谷ブロードウェイ(井上芳雄、島田歌穂、中川晃教、田代万里生、遥海)。「いま一番ぴったりな曲」という前振りから『雨が止んだら』。桜井和寿(Mr.Children)によって「日比谷音楽祭2023」のために書き下ろされ、その年のステージで日比谷ブロードウェイと桜井和寿の共演によって初披露された楽曲。今年5月28日に日比谷ブロードウェイによってシングルリリースされたナンバーだ。コロナ禍の収束を雨が降り止む情景に重ね、未来への希望を綴った曲が、5人の伸びやかな、それでいて語りかけるような歌声で歌われる。

息が合っているようで合っていないような楽しいMCの掛け合いを経て、5人がその日限り、一回限りのステージへの感謝をそれぞれに口にすると、曲は野音の近くに位置する帝国劇場を代表する演目の一つ『レ・ミゼラブル』のメドレーへ。実は島田以外の4人は『レ・ミゼラブル』への出演経験が無いそうなのだが、そんなことはどうでもいいほどの素晴らしい迫力! 今年も、野音のステージが確かにブロードウェイ(劇場)と化したひと時だった。

ここでThe Music Park Orchestraは退場。場内に突然、流れ出すテーマソングとジングル。『亀田誠治のSaturday in the Park』。何と、この日のためだけに用意されたスペシャルなラジオプログラムだ。もちろん、新曲『演歌がいいから』を挟んでのトークゲストは、この後に登場する予定の小沢健二。日本の西洋化、近代化の歴史と日比谷公園の関係性についてのトークが小沢と亀田によって繰り広げられていく。これは、亀田のレギュラーラジオ番組に小沢がゲスト出演したことでこの日のライブに繋がったという経緯に引っ掛けて実現したもの。ステージ転換の時間を有効に楽しんでもらおうというふたりからの粋な計らいだった。

トークの最後に、バンドメンバー紹介(白根佳尚(Dr.)、小竹満里(Perc.)、朝川朋之(Harp.)、亀田誠治(Ba.))を兼ねたサウンドチェックを観客と共に済ませ、いよいよ小沢健二(Vo.& Gt.)がステージに登場。小沢からの「さて、亀田さん、例のベースラインをお願いします」の一言を皮切りに『アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)』がスタート。1曲目から熱のこもったボーカルでそのまま『彗星』、『ぼくらが旅に出る理由』、『愛し愛されて生きるのさ』へ。多くのオーディエンスが一緒に歌っている。

そこからギターのみで『東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃ ボディー・ブロー』を短く挟んでバンドで『ラブリー』へ。「歌える?」という小沢の語りかけに応えての場内大合唱から間髪入れずに『フクロウの声が聞こえる』へ突入。小沢の高らかなボーカルに呼応するように亀田のベースラインが鳴り響く。そのままシームレスに『天使たちのシーン』の1サビまでを歌ったところで、“前もって録音された朗読”が流れ出す。小沢の声で、ソロファーストアルバムの曲を野音で歌った思い出から、時に楽曲が予言となることへの考えなどがオーディエンスへと語られていく。

小沢が野音に立つのはソロデビュー時のフリーライブから実に32年ぶり。「32年前、誰もが初めて聴いたファーストアルバムの曲たちを1つにして歌ってみようと思います。歌詞に気を付けて聴いてください」というアナウンスに場内がどよめく。そこからギター一本の弾き語りスタイルで、アルバム『犬は吠えるがキャラバンは進む』の収録曲(『向日葵はゆれるまま』〜『カウボーイ疾走』〜『地上の夜』〜『天気読み』〜『昨日と今日』〜『暗闇から手を伸ばせ』〜『強い気持ち・強い愛』〜『暗闇から手を伸ばせ』〜『ローラースケート・パーク』)をメドレー形式で届けるというまさかの展開に! オーディエンスはただただ静かに珠玉のフレーズに聴き入っている。最後は『流動体について』。演奏は途中からバンド形態に戻り小沢が再度、客席に「歌える?」と語りかける。清々しい熱気のなか、疾走感溢れるバンドのビートと共に駆け抜けるように『流動体について』を歌い切ると、「日比谷野音!! ありがとうございました」と礼を言い、小沢はステージを後にした。

トリのアーティストとしては構成も演奏形態もセットリストも例年になく変則的かつ予想外のパフォーマンスとなったが、この自由度もまた日比谷音楽祭の醍醐味と言えるだろう。何より、こんな小沢健二のライブが見られるとは! 彼のファンのみならずともこの上なく胸踊る、文字通りの“Dream Session”だった。

文:内田正樹