Playback 日比谷音楽祭2026
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Hibiya Dream Session 2
ライブレポート(5/31)
『日比谷音楽祭2026』最終日となった5月31日(日)に行われた、FORUM座(東京国際フォーラム ホールA)でのセッション『Hibiya Dream Session 2』の様子をレポート。
その前に、なぜ「FORUM座」という名前なのかという話から。こちらはもちろん亀田誠治実行委員長の思いがこもっている。ここ『日比谷音楽祭』が開催される日比谷、有楽町、銀座エリアは、特に明治時代以降、文化の中心地として栄え、劇場が多く集まるエリアとして今もその顔は変わらない。歌舞伎座、明治座など、「座」のつく会場名が現存していることからもわかるとおり、人々が集うことを「座」と呼び、転じて芸能の世界では場所を指すようになった。そう思って見てみれば、東京国際フォーラム ホールAの座席は、ステージを中心に半円形を描くように配置されている。まさに「FORUM座」という名に相応しい、というわけだ。

この日、最初にステージに登場したのは、ピアニストの菊池亮太。バケットハットをかぶったラフなスタイルで鍵盤に向かい、絞り出すような最初の一音から始まったのは、ラフマニノフの『ピアノ協奏曲 第2番』のダイジェスト。さらにそこから挨拶を挟んで、ガーシュウィンの『ピアノ協奏曲 ヘ長調 第3楽章』へ。
「本当は、オーケストラと一緒にお贈りしたいんですけど、スケジュールの都合で必要な人員が集まらず(笑)、なので全部一人で弾いてみようかなと思います。カッコいい曲なので、気軽に楽しんでください」(菊池)
都会の夜をその内側の生活まで含めて再現したようなエネルギッシュで細密なサウンド世界をピアノだけで表現し切ってみせた迫力に会場からは大きな拍手が湧き起こった。 「クラシックってカッコいいなって思ってくださったらうれしいです」(菊池)

ここでヴァイオリニストの高松亜衣を呼び込んだ。彼女と2人で演奏するのは、「まるで短距離走のような曲」というニコライ・リムスキー=コルサコフ『熊蜂の飛行』だ。とにかくヴァイオリンの超絶技巧による速弾きがジェットコースターのような曲で、また違ったアングルでクラシック音楽を楽しむことができた。 「熊蜂を探しちゃったね」と言った亀田実行委員長の感想に皆うなずいていた。

日本のクラシックと言えば、雅楽。ということで、次に行われたのは、正倉院 THE SHOW「光」セッション。これは、昨年開催された奈良・東大寺旧境内にある正倉院の特別展覧会『正倉院THE SHOW』において亀田誠治が携わったプロジェクトで、正倉院に収蔵されている1300年前の楽器(もちろん国宝)の音色を今に甦らせ、それらと現代の楽器を融合させてつくったオリジナル楽曲「光」をライブで表現しようという試みだ。
大塚惇平(笙)、駒田早代(三味線)、長須与佳(尺八・琵琶)、中村華子(阮咸)、纐纈拓也(龍笛)、笠原樹山(尺八)とThe Music Park Orchestraがコラボして「光」を生演奏する、この場でしか味わえない特別なセッションだ。

それぞれの和楽器の個性が運んでくる悠久の時間と、それらがキーボードやベースといった現代の楽器と合わさったときに奏でるのは、未来だった。我々のDNAに根差した音楽を掘り起こすような新たなプログレッシヴ・ミュージックといったサウンドがとにかく新鮮な後味を残した。

今回、チェリストのEru Matsumotoが手にしているのは“特別”なチェロだ。飴色に輝くそれは、「奇跡のチェロ」と呼ばれている。
「令和6年の能登半島地震で倒壊した工房から無傷で救出された楽器なんです。表面は本来ならニスが塗られるんですけど輪島塗りが施されていて本当に美しいです」(Eru Matsumoto) この、世界にひとつしかない特別なチェロで演奏するのは『鳥の歌』(カタルーニャ民謡)。カタルーニャ出身のチェロ奏者パブロ・カザルスが1971年に国連本部で行った世界平和デーの演奏会で披露し、一躍有名になった曲だ。 「実は、その演奏とスピーチを私は6歳の頃にテレビで見て、チェリストになるぞと決心した私自身の原点の曲です。世界の平和を込めて演奏したいと思います」(Eru Matsumoto)
The Music Park Orchestraから四家卯大(チェロ)と田島朗子(ヴァイオリン)が加わった特別な編成でのパフォーマンスは、大切な物語と想いが重奏的に響く、素晴らしい演奏だった。

Eru Matsumotoがそのままステージに残って迎えたのは、平原綾香。ステージ中央で2人が抱擁を交わす。1曲目は『Jupiter』。Eru Matsumotoのチェロをフィーチャーしたアレンジは、平原のヴォーカルをより引き立てるもので、彼女の歌声を存分に堪能できる贅沢なものとなっていた。

今回、亀田実行委員長が平原にどうしても出演してほしいと思ったのは、会場が国際フォーラム・ホールAということが大きかったと打ち明けた。 「とにかく響くホールだから、あーや(平原)の声を届けたいなとラブコールを送ったら、『ずっと待ってた』と(笑)」(亀田) 「そうなんです。やっと出演することができました」(平原) 亀田は彼女のキャリアの初期から一緒に仕事をしており、おそらくこの曲からだったのではないか、ということで披露したのは『誓い』。NHK「2006トリノオリンピック」のテーマ曲だ。 「もともと私は、高校、大学とサックス専攻で音楽を学んでいて、歌を歌うことに全く慣れていなくて、デビュー当時は頭を抱えながら日々を過ごしていました。そんなときに支えてくれたのが亀田さんでした。今日は、感謝の気持ちを込めてお贈りしたいと思います」(平原) 圧倒的な表現力で会場を魅了した彼女のパフォーマンスに惜しみない拍手が贈られた。

6人組ツイン“リード”ヴォーカル・バンド、Penthouseから浪岡真太郎と大島真帆の2人のヴォーカリストが登場。亀田実行委員長の推しということで期待が高まる。1曲目は『一難』。ラテングルーヴの軽快なノリに男女ツインヴォーカルがスリリングに絡み合うシティソウルだ。会場の盛り上がりもすごい。 「2年前の『日比谷音楽祭』に私たちのメンバーの角野隼斗というピアニストが出演したときに、私は客席から観ていまして、私だって亀田さんと一緒にやりたい!って思ってました(笑)」(大島)
2曲目に披露したのは『...恋に落ちたら』。洗練されたサウンドとメロディ、やはり何より浪岡と大島のヴォーカルが抜群にオーディエンスの体を揺らす。心地よい5月の風のようなパフォーマンスが新鮮だった。

「では、次行ってみよう!」と亀田実行委員長が少しシアトリカルな口調で言うと、カウントが入り、バンドが学校のチャイムの音階を奏でる。新しい学校のリーダーズだ。『日比谷音楽祭』初登場となった彼女たち、さすが世界を舞台に活躍する存在感はステージに出てきた瞬間から発揮され、会場全体を掌握。『オトナブルー』のあと、メンバーがかわるがわる挨拶をすると、「次の曲は我々が初めてロサンゼルスに行って生まれた曲です」と紹介した『Pineapple Kryptonite』へ。

ビースティ・ボーイズに欠かせないツアーメンバー、共同制作者として知られるマニー・マークがプロデュースした楽曲で、ハイパーな打ち込みサウンドがThe Music Park Orchestraの手によって生バンドの音へと変換されていく様がスリリングだった。また、ステージ上で繰り広げられたバトルシーンはどこかクエンティン・タランティーノの映画を観ているようでもあった。
ヘドバンやヲタダンスをフィーチャーしたコレオで煽りまくったハイブリッド・パンクチューン『青春を切り裂く波動』では、SUZUKAが靴飛ばしの要領で上履きを脱ぎ飛ばし、“サーイコー”のコール&レスポンスからの『One Heart』では、客席に乱入してパフォーマンス。振り切りまくったパフォーマンスで、『日比谷音楽祭』に確かな爪痕を残した。

その名前が亀田実行委員長から告げられると、大きな拍手と歓声が湧き起こった。森山直太朗だ。簡単な挨拶に続いて披露したのは『さくら』。会場は一気に静けさに包まれた。そのコントラストに鳥肌が立った。そしてその歌声に心が震えた。バッキングはピアノとベースのみ。そこに、5000人の感動が混ぜ合わされ、最高の音楽が出来上がっていく。 「この曲は25年前にレコーディングしたんですけど、そのときにピアノを弾いてくれたのが斎藤有太さん(The Music Park Orchestraメンバー)でした」(森山)
そんな貴重な邂逅もありつつ、次に森山直太朗が選んだのは最新シングル『愛々』。TBS系金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』の主題歌として話題となり、リリース後もじわじわと着実に広がりを見せている楽曲だ。
とにかく歌の力を感じることのできる曲だ。風を、太陽の熱を、土の匂いを、人恋しさを、少しの後悔を、行く先に待ち受ける楽しさを、それら全てをバックパックに詰め込んで歩き続ける誰かの姿は私たち一人ひとりに重なる。またすごい曲を生み出した。『さくら』と続けて聴いたからこそ森山直太朗のこれまでの歩みと重なって、その凄みが質量を伴って感じられた。

佐橋佳幸のエレキギターのインプロからリフへ、そこにハイハット、ベースが入る。「ここで僕のわがままを聞いてもらっていいですか?」(森山)と言って、オーディエンスにスタンディングを促す。立ち上がったオーディエンスが演奏に合わせてクラップを鳴らす。イーハー!と掛け声が一発入れば、アメリカーナ風にアレンジされた『どこもかしこも駐車場』の出発進行。ハープにアコギで森山直太朗は歌いながらオーディエンスを煽り、会場が一体となった。

『No Limit』でラップのシャワーを浴びせたのはもちろんKREVA。『日比谷音楽祭』には、もはや欠かせない重要なアーティストだ。
「この『日比谷音楽祭』を支えるクラウドファンディング、今目標金額の半分をやっと越えたくらいです。クラウドファンディングに『No Limit』! クラウドファンディングに限度額なんてないんで、皆さんぜひ参加してください。ここにいる人も配信で観ている人も、“これはお金を払うべきものである”と思ってもらえるようなライブをやるんでよろしくお願いします!」

説得力が半端ないし、本当にここでしか観られない最高のパフォーマンスを見せてくれた。『アグレッシ部』に続いて、KREVAがステージに呼び込んだのは、山内総一郎。彼と一緒にやったのは、鈴木茂の『八月の匂い』。きっかけは、The Music Park Orchestraの一員でもある佐橋佳幸だった。曰く「クラウンレコードに55年前設立されたPANAMというレーベルがあるんですけど、そのトリビュート企画というのを昨年の9月からやってまして、昨年リリース50周年を迎えた元はっぴいえんど鈴木茂さんの『BAND WAGON』というアルバムのなかの1曲、松本隆さんが作詞をされた『八月の匂い』をKREVAと山内くんの2人でやったらいいんじゃないかと思ってオファーしたんです」(佐橋) 「やってみたら気持ちよかったし、これ『日比谷音楽祭』にピッタリなんじゃないかと思って」(KREVA)
KREVAにやってもらうとなったらやっぱりラップをしてもらいたいとなり、佐橋が松本隆に許可をとると快諾してくれたのだという。
山内がヴォーカルを取りながらボトルネックでギターを弾く。KREVAは歌唱部分もありつつ、オリジナルのラップを決める。ラップというものがメッセージを伝えるのと同時に、楽器と同じように音を奏でる効果もあるのだという発見があった。まさに『日比谷音楽祭』らしい、音楽を次の世代にきちんと渡していく様がみられた最高のコラボレーションだった。

日比谷周辺にはミュージカルが観られる劇場がたくさんあるということから、初年度からこの音楽祭のプロジェクトの一環として井上芳雄を中心に、毎回旬なミュージカル俳優たちから成るユニット「日比谷ブロードウェイ」がセッションに登場する。今回は、井上芳雄、明日海りお、三浦宏規の3人が揃った。井上以外は『日比谷音楽祭』初参加となる。

「毎回ニュースを見て楽しそうだなと思っていたので、参加できてとてもうれしいです」(明日海) 「この『日比谷ブロードウェイ』に呼ばれたら初めてミュージカル俳優と名乗っていいということなので(笑)、非常に光栄です」(三浦)
井上を中心に息のあったトークを展開しながら、今年の1曲目に彼らが用意したのは、ミュージカル『ミー&マイガール』より『ランベス・ウォーク』。3人それぞれが同じ役を演じたことがある(明日海は宝塚歌劇団の在籍中に男役として、三浦は12月からの舞台で初挑戦する)という共通点でのチョイスとなった。心躍るリズムにオーディエンスからは自然と手拍子が鳴らされる。明日海はオケピ(オーケストラピット)で、井上と三浦は客席に降りて会場を大いに盛り上げた。
「今の時代に歌う意味のあるもの」(井上)ということで、『民衆の歌』(『レ・ミゼラブル』)を最後に披露した。そこになんとゲストとして平原綾香、ドラマーのYOYOKA、そして曲の途中にKREVAとPenthouseの浪岡真太郎と大島真帆も参加して、民衆の力強さを表現した。

さて――。『日比谷音楽祭2026』を締めくくるのは、この人。JUJUだ。第一回の2019年以来、二度目の出演となる。
「そもそも私は亀田さんの大ファンなんですよ。『日比谷音楽祭』にも参加させていただけてうれしいなと思っていたら、そこから全然お声が掛からなかった(笑)」とJUJUが言うと、会場をほっこりさせた。今回の選曲は、「亀田さんとご一緒させていただいた曲」ということで、1曲目は『かわいそうだよね』。自分の内面を抉り出すこのバラードは、平井堅が作詞・作曲、アレンジを亀田が担当した。
「私はこの曲に出会って、特別だといいなという想いがどこかにあるけど、私にしかできないことって何一つないなっていうことに気づいて初めて見えることがたくさんあって。そういうことが大人になるってことなのかなって、すとんと私のなかに落ちるものがあったんですよ」(JUJU)
次の曲は亀田実行委員長から提案したマイケル・ジャクソン楽曲で『Ben』。14歳のマイケルがソロとして初めてチャート1位を獲得した楽曲だ。
「この曲を亀田さんにリクエストされたときに『かわいそうだよね』を歌ったあとに歌うのが本当に意味のあることだなと思って。どこかに救いはあるし、それは音楽だったり本だったり友達だったり、これだけはずっと一緒にいられるっていうものを見つけることってとても素敵だなってこの曲を久しぶりに聴いて思いました」
同名映画のテーマソングとして、孤独な少年とネズミの友情が歌われるこの曲の旋律が、その場で英語の歌詞がわからなくとも、しっかりとその波動が伝わってくるパフォーマンスだった。
最後は、JUJUの『やさしさで溢れるように』。『日比谷音楽祭』のステージから、誰かに向けて、今という時代、世界に向けて、確かなメッセージが種となり、やがて芽吹く様子が見えるような気がした。

この日、KREVAのステージのあと、鈴木茂の『八月の匂い』の余韻が残るなか、転換中(優秀なスタッフさんの尽力で本当に短い時間で終わり、観ている側も全くストレスがない)に亀田実行委員長がこんな話をしたのが印象的だった。 「今回、この『FORUM座』でやることが決まって、そしたらいろんなアイデアが思い浮かんだんです。もちろんジャンルだとか組み合わせとかそういうこともあるんですけど、不思議だったのが、いろんな先輩方の顔が浮かんだんです。やっぱり日比谷野外音楽堂も含めてこのあたりで鳴ってきた音楽の歴史というものがあるんですよ。そこにはきっと音楽の神様がいて、『亀ちゃん、今回はこの人を呼びなさい、そしてこんなことをやりなさい』っていうことを教えてくれたような気がします」
『日比谷音楽祭』も今年で8年目、来年は9年目を迎える、そして気は少し早いが10年目の節目も見据えられるようになった。あのとき『日比谷音楽祭』で観たステージが忘れられなくてミュージシャンになった、音楽関係の仕事に就いた、日比谷で働きたいと思った――そんな“つながり”の鼓動が、かすかに聴こえた気がした。

文:谷岡正浩
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