Playback 日比谷音楽祭2026
Report レポート
イベントレポートDAY1 5/30
2019年の初開催から数えて8年目、2026年5月30日(土)と5月31日(日)の2日間開催された日比谷音楽祭2026。日比谷音楽祭でしか見られないスペシャルセッション「Hibiya Dream Session」をこれまで行っていた日比谷公園大音楽堂(野音)が改修工事に入っている今年、どうなることやらと思っていたら、さすがは実行委員長・亀田誠治。なんと東京国際フォーラム ホールAを使用するというから驚きだ。
今年は、野音改修という大きな転機を迎え、東京国際フォーラムまでエリアを拡大し、助成金終了後初の開催という試練の年。それでも出演者、スタッフ、協賛社、支援者、ボランティア、そして来場者の想いが集まり、今年も開催が実現した。
4年目の参加となる筆者も、このフェスの継続がいかに大切なものかを改めて実感した日々だった。『日比谷音楽祭』の理念は、年々少しずつその輪を広げ、多様な人々が音楽と出会うきっかけを生み続けている。
開会宣言で飛び交う「亀田さーん!ありがとう!」の声
夏の入り口が見え始めたこの日の晴天の中、日比谷音楽祭は毎年恒例、実行委員長・亀田誠治の開会宣言で幕を開けた。ONIWAステージ(日比谷公園 芝庭広場)に立つ亀田が晴天の中意気込みを話すと、「亀田さーん!ありがとうー!」と感謝の声が飛ぶ。8年目になるこのフェスティバルは、すべて無料で開催されているのだ。

この日のONIWAステージのオープニングを飾ったのは、LDHダンスワークショップショー。EXILE B HAPPYのEXILE TETSUYA、中務裕太、浦川翔平が「朝ダンス」で盛り上げる。彼らは「子どもたちをたのしませるダンスボーカル活動」をしているという。
「朝活だと思って体動かしてこー!」
「暑いですが涼しい曲やっていきますー!」
“Choo Choo TRAIN(EXILE)”など誰もが知る楽曲で身体を動かすと、小学生の頃に運動会で踊ったダンスを思い出す。「音楽で踊る」ことは身近な音楽の楽しみ方の一つだ。
EXPG STUDIO TOKYOのダンサーも巻き込みながら、EXILE B HAPPYがカバーした大御所のロックバンド・ゴダイゴの“ビューティフル・ネーム”と“銀河鉄道999”を披露。こうやって、音楽が世代を超えていくのだろう。何より、太陽の光を浴びるだけで健やかな気持ちになるから、音楽を外で楽しむって最高だ。さて、1日を楽しむ準備体操は十分である。

日比谷音楽祭は「日比谷公園」だけではない
日比谷音楽祭は、日比谷公園だけではなく様々な場所にステージが散りばめられている。そのうちの一つが、東京ミッドタウン日比谷(日比谷ステップ広場)に位置するHIROBAステージだ。
日比谷公園を出て5分ほど歩くと、ポルノグラフィティ“アポロ”の歌詞が、ジャジーなサウンドと心地よい風に乗せられて聴こえてくる。演奏していたのは吉田沙良と角田隆太によるユニット「モノンクル」だった。2011年に結成された彼らは音楽のジャンルを横断して自在にポップスを奏でる唯一無二の2人組である。
「夏の曲やります」と“HOTPOT”が始まると、すでに飲み干したアイスコーヒーのカップを片手に踊る人や、東京ミッドタウン日比谷に買い物に来て立ち止まる人など、それぞれの楽しみ方が目に入る。まだ5月だということを忘れるほど、気分は夏フェスだ。

都会的なサウンドが、東京の街中を彩る。
「最高のアーティストが無料で見れるってヤバいフェスだなって思います。みんな最後まで楽しんでいきましょう!」
バンドや弦楽器を加えた編成などイベントにより変幻自在な2人組だが、最近はその場でループを組んで(音を重ねて)の演奏にハマっているという。ライブならではの演奏に期待値が上がる。
最新アルバム『僕ら行き止まりで笑いあいたい』から“GINGUA”、さらに2017年のアルバム『世界はここにしかないって上手に言って』から“ここにしかないって言って”と新旧の楽曲を披露。久しぶりにライブを観たが、変わらず新しい表現を探求し続ける2人の姿は印象的で勇気をもらった。ライブ直後には物販にも列ができており、観客それぞれが思い思いの形で感動を持ち帰っていた。チケット代がかからない分、アーティスト物販でしっかり感謝を伝えたいものだ。
日比谷音楽祭は暑くなったら近くの商業施設で涼むこともできれば、買い物をすることもできるし、カフェもたくさんある。体力面でも無理をせず、ストレスなく楽しむことができるのでゆったりとできるのが心地よい。
大御所アーティストのスペシャルステージが無料で
日比谷公園に戻ると、活動25周年のORANGE RANGE(ACOUSTIC SET)のステージに老若男女が集まっていた。
聴き馴染みのある曲だと思ったら、これは“SUSHI 食べたい feat.ソイソース”だ。さらに“上海ハニー”では大勢が手を上げる。こんなに夏が楽しみになるバンドを他に知らない!平成一桁代生まれの筆者はORANGE RANGEど真ん中世代だが、世代関係なく盛り上がっていた。音楽は知らず知らずのうちに知っているなんてことが起こるから、不思議だ。レジャーシートを敷いてくつろぎながらライブを観る人も多い。

真夏の気分になって日焼けが心配になり、「日焼け止めがない!」と焦っていると、日焼け止めのサンプルを配っている株式会社FRACORAのSUPPORTER'Sブース(協賛テント)が。たくさんの企業がこのフェスを協賛で支えているが、来場者にとっても嬉しい内容が多く、ブースのスタッフさんは音楽好きな方々ばかり。各ブースを回りつつさっきまでのライブの感想を交わすのも、楽しみ方の一つだ。
あらゆる楽器が体験できる!「おんがくKADAN」でミュージシャン気分
さて、毎年恒例の音楽マーケットでは、今年もたくさんの楽器メーカーが体験ブースを企画していた。
その一角である「おんがくKADAN」を覗くと、株式会社山野楽器が「トイ楽器ランド」を展開していて、テントの中にはたくさんのトイ楽器がある夢のような空間。順番待ちができるほどの人気で、一度足を踏み入れた子ども達は普段聴いたことがない音に釘付けだ。この場所がはじめての楽器あそびとなる子どもも少なくないだろう。その横の「管楽器体験」や「弦楽器体験」には、大人たちも並ぶ。
思い返せば、筆者が通っていた中学校、高校には吹奏楽部がなかった。そのため管楽器は憧れであり遠い存在で、さらに弦楽器はお金持ちの子が習っている習い事のイメージ。日比谷音楽祭は、そういった個々人の環境に依らず、楽器に触れる機会が等しく開かれている。もちろん学校教育などで解決できるのが良いかもしれないが、一年に一度でも、こういった日があることは、未来に大きな意味がある。

さらに株式会社ヤマハミュージックジャパンは楽器体験イベント「TOUCH&TRY」でバンド演奏を体験できるブースを、そしてカシオ計算機株式会社はCASIO 電子楽器ブース、ローランド株式会社は電子ドラム・パーカッション、電子管楽器、キーボードの体験ブースを設けていた。「ASOBI(日比谷公園 草地広場)」ではAlphaTheta株式会社がDJ体験を提供。このようにできるだけ多くの楽器が楽しめるよう、各企業がお互いにそれぞれの楽器のよさを知ってもらえるようにブースを企画しているのだろう。ライブを観るだけではなく、「未知の楽器を体験する」切り口でも十分に楽しめるフェスとしては唯一無二だ。
「フリーでボーダーレス」な音楽祭と「自由の鐘」
お腹が空いたのでキッチンカーでカレーをゲットして散歩する。この時期の日比谷公園はテニスをしている人もいれば、皇居ラン後のランナーもいたり、ピクニックをしている人がいたり、とにかく広い公園ならではの自由さが溢れている。満腹の幸福感の中聴いたロサンゼルス生まれロサンゼルス育ちのシンガーソングライターRaineは、この日のハイライトだった。
Raineが演奏した日比谷公園 健康広場には、自由の鐘がある。この鐘は、終戦直後、連合国軍総司令官だったマッカーサーの提案を受けた米国の市民有志が、自由の恩恵を受ける社団法人日本新聞協会に寄付したものだ。この鐘に見守られる形で、「HIDAMARI」ステージが開かれている。
直近でリリースしたEP『Backseat』から“Backseat”そして“Airplane”を披露すると、鳥に語りかけるようなリラックスした歌声に、バイオリンの音色とアコースティックギターが心地よく響く。大きな木の下に人が集まり、丘の方には寝転がって聴いている人もいる。

「3年前に日本に留学してて遊びに来てて、いつか出たいと思ってたら、まさか本当に出れるなんて!」
彼女は母親からはR&Bやゴスペルの影響を受け、祖父の小坂忠からはフォークやロックの影響を受けて育ったという。豊かな音楽的なルーツ、カルチャーから影響を受けて生まれた彼女の歌声は牧歌的で、それがこの広場に響くこと。音楽が「フリーでボーダーレス」なことを彼女がその一身で示しているようだった。
音楽は演奏される場所とシチュエーションで、奇跡的な力を持つことがある。素晴らしい音楽は時代も国境も超える。閉塞感のある時代だからこそ、2026年の日比谷音楽祭にRaineがいたことに、フェスが掲げる「フリーでボーダーレス」という理念を重ねずにはいられなかった。
目が見えなくても、耳が聴こえなくても楽しめるように
日比谷音楽祭が「フリーでボーダーレスな音楽祭」を目指す中で、どんな人も取りこぼさないように様々な工夫もされている。
毎年恒例、曲に手話をつける「手話うた」がその一つだ。立教大学手話サークル Hand Shapeの協力により、今年は高橋優の“福笑い”でコラボレーションしていた。

他にもホームページにはアクセシビリティに配慮した機能を実装されていたり、東京都内の児童関連の福祉施設を利用している子どもたち等を「Hibiya Dream Session」に招待するなどの取り組みもされている。
そして今年特筆すべきは、全盲のビートメイカー、ビートポエトリーのアーティスト ANJIの出演だろう。COMPUMAのワンマンライブのオープニングアクトや『橋の下大盆踊り2025』など各地のフェスやイベントに出演する彼女は、音で遊ぶようにビートを組み上げ、そこに自然あふれる情景描写の朗読やエレクトロサウンドを重ねていく。小学校の教科書にも載っていた金子みすゞによる「わたしと小鳥とすずと」のポエトリーリーディングでは、こんなに美しい詩だったのかと、見たことのない桃源郷が浮かんだようで驚かされた。

音楽の公共性を再提示する音楽祭が、これからも続くために
音楽を共有することは、根源的に人と人が「やさしくつながる方法」だ。色んな目も向けられないようなことが起こる世の中で、音楽を共有している時間は国境も世代差も性別も関係なく、「フリーでボーダーレス」に存在することができる。世界各地で争いや分断が続き、日本でも先の見えない不安が広がる現在。何を信じて良いか分からないこの状況で、数少ない「音楽を通して、人を信じられる」時間がそこにはあった。
不安が続く世の中で、今年は正直なところ、会場に向かうまでは音楽を楽しめるかどうか不安だった。しかし、心配無用だった。音楽を聴いて、どんな気持ちになるのも自由だった。たとえそれが手放しな楽しさとは違った形であっても、心が動き、息ができ、その時間を多くの人と共有できる。その場にいるそれぞれが自分とその音楽との向き合い方だけに集中している時間の、豊かさがそこにあった。それを改めて教えてくれた日比谷音楽祭は、これからも多様な音楽の魅力を伝える場所として存在し続けてほしい。

最後にしっかり伝えておきたい。この日比谷音楽祭は、協賛社の協力もありながら、一般の方の支援によるクラウドファンディングや寄付によって運営されている。2026年6月15日時点で、2000人を超える人がクラウドファンディングを支援しているが、それでも達成率は88%で、継続にはさらなる支援も必要だ。リターンには「打ち上げ参加権」や亀田誠治の生解説による「スタジオ見学ツアー」、オフィシャルグッズの「Tシャツ」や「カレンダー」まで様々なものが用意されている。お金を払うことは一番手軽に、誰でも音楽文化のつくり手として参加できる方法だ。「みんなでつくる音楽祭」を来年も実現するために、支援しつつ2027年を一緒に楽しみにしよう。
文:柴田真希