Playback 日比谷音楽祭2026

Report レポート

Hibiya Dream Session 1
ライブレポート(5/30)

2019年にその歩みが始まった『日比谷音楽祭』も今年で8年目を迎え、大きな変化があった。野音(日比谷公園大音楽堂)が改修工事に入ったため、それまで数々の豪華でレアなセッションが繰り広げられてきた『YAON』ステージに変わって、東京国際フォーラム ホールAが、その名も『FORUM座』として加わることになった。

野外から屋内会場へ、という変化は音楽をやる側、そして観る側にとってもかなり大きな違いがある。しかし、だからこそ『FORUM座』でしかできないブッキングや試みがあり、また同時に屋内であろうが野外であろうが、変わらない音楽の楽しさ、『日比谷音楽祭』のスピリットを味わえた2日間だった。

ということで、まずは初日、5月30日(土)の『Hibiya Dream Session 1』からレポートする。

亀田誠治実行委員長が挨拶に続いてステージに呼び込んだのは、渡辺貞夫グループ2026。なんと、今年で音楽活動75周年にあたり、まだまだ精力的にツアーを行なっている、まさにレジェンドというに相応しいプレーヤーだ。また、様々な支援活動、平和への提言も音楽活動を通じて行なっており、次世代へつなげるフリーでボーダーレスな音楽祭を標榜する『日比谷音楽祭』との邂逅は必然であったように感じる。

今回のメンバーは、渡辺貞夫(Sax)、小野塚 晃(Key)、養父 貴(Gt)、三嶋大輝(Ba)、竹村一哲(Dr)の5人から成るエレクトリックバンド編成。長年、渡辺を支える小野塚、養父といった名手たちに、三嶋、竹村の若手実力派によるリズム隊が新鮮な風を運ぶ。1曲目『RENDEZVOUS』。1980年代のニューヨークの空気をギュッと閉じ込めたような煌びやかでスムースなサウンドが心地よい。何より渡辺貞夫のサックスの音色の温かみは、音楽が世界の共通言語であることを改めて思い知らせてくれる。

エネルギッシュなプレイで魅せた『ONE MORE TIME』、切ない旋律が心に染みるバラード『I THOUGHT OF YOU』などに続いて披露したのは、『SANGOMA』。南アフリカのズールー族の間で「呪術師」を意味する言葉をタイトルに冠したこの曲は、渡辺の音楽的バックボーンの重要なひとつであるアフリカン・ミュージックを前面に押し出したナンバーだ。大地が震えるようなテーマに続いてベースから入った各ソロセクションは圧巻。ソロの最後を締めくくるのは渡辺のサックスで、癒しでも祈りでもあるかのようなトーンが素晴らしかった。

最後は代表曲のひとつ『TEMBEA』。様々なアレンジが存在するこの曲だが、この編成で聴く『TEMBEA』はよりタイトで速いテンポが祝祭感を増して感じられた。大歓声に包まれて楽器を置いたメンバーが、南アフリカの伝統歌『SHO SHO LOZA』をアカペラで歌い出すと、客席から手拍子が湧き起こった。音楽の豊かな魅力の詰まった約45分のステージだった。

渡辺貞夫グループ2026のステージに沸いたあとに登場するのは、EXILE B HAPPYから吉野北人と中島颯太。ジャズ・レジェンドからボーイズグループへとバトンが渡されるのも『日比谷音楽祭』ならではの光景だ。ジャンル、世代の垣根を当たり前のように飛び越えて、ただ素晴らしい音楽でつながっていく。ここからは、The Music Park Orchestraと豪華なアーティストとのセッションが繰り広げられていく。

1曲目は、ゴダイゴの名曲『ビューティフル・ネーム』のカバー。会場には、老若男女が詰めかけており、小さな子どもの姿も目立つ。まさに「フリーでボーダーレスな音楽祭」を絵に描いたような会場が、親しみのあるメロディと彼らのハートウォーミングな歌声でひとつになっていく。

普段彼らはダンス&ボーカルグループということで、あまりバンドと一緒にステージをやることはないようで、そういう意味でも貴重なセッションが実現したと言える。

2曲目は、『掌の砂』。誰かにそっと寄り添う歌詞が、バンドとともに音楽をクリエイトしている2人の姿に重なり、夢や希望を持ち続けることの大切さが乾いた砂に染み込む水のように会場に浸透していった。

玉井詩織(ももいろクローバーZ)が1曲目にパフォーマンスしたのは、『ベルベットの森』。ソロ楽曲として2023年に発表されたもので、作詞・作曲・編曲の全てを亀田実行委員長が手掛けている。玉井がステージに現れるとすぐに客席にはペンライトの光が灯され、待ち侘びていたファンの後押しを受け、曲の盛り上がりとともに彼女のパフォーマンスも存在感を増して行ったような印象を受けた。気づけば、会場全体が彼女の楽曲の色に染まっている。

「ようやく今年叶いました」と亀田が言えば、「このステージに立たせていただいて光栄です」と玉井が気持ちを伝える。2年前の『日比谷音楽祭2024』では、配信限定のプログラム「MC station」にスペシャルMCとして登場した彼女が、満を持して『Hibiya Dream Session』に参加ということで、このあたりのアーティストにまつわる日比谷音楽祭個人史も回を重ねるごとに厚みを増していきそうだ。

2曲目に選んだのは、ジブリの名作映画『風の谷のナウシカ』から『風の谷のナウシカ』。『日比谷音楽祭』でもお馴染みの音楽プロデューサー武部聡志によるスタジオジブリ トリビュートアルバム『ジブリをうたう』に収録された楽曲だ。玉井の力強さと繊細さを併せ持った歌声がスペシャルなバンドのアンサンブルと溶け合って、ジブリの世界という誰もが思い浮かべることのできる“あの場所”に連れて行ってもらえたような気がした。

話題のシンガーソングライター、ふみのが登場。ラベンダーカラーにカスタムされたフェンダー・ジャズマスターをかき鳴らして披露したのは『favorite song』。どこまでもポジティブに突き抜けるポップロック・サウンドが彼女の歌とパフォーマンスでより一層引き立って響く。

「ふみのちゃんがオーディション番組(「No No Girls」)に出てる頃から注目していた」という亀田実行委員長。そこからとある縁で出会い、『日比谷音楽祭』へのオファーとなって実現した。音楽祭のほとんどにおいて先頭に立つ亀田の意思(音楽愛)が色濃く感じられるのも、『日比谷音楽祭』がただのフェスではない理由だ。

2曲目は『よくあるはなし』。「愛を理由に善と悪が揺らぐ瞬間を描いた」という彼女の最新シングルだ。シリアスで深みのある詩世界とサウンドは、先ほどパフォーマンスした『favorite song』とは対照的で、一人のシンガーソングライターがここまで振り切った表現をそれぞれの楽曲できちんと見せることができるのに、その若さを考えると驚かされた。彼女を送り出してから、「未来の音楽シーンは明るい」と亀田が断言したのも納得だ。

「僕の大切なベー友」と紹介されたのは、丸山隆平(SUPER EIGHT)。イントロで丸山のスラップが炸裂する『“超”勝手に仕上がれ』からライブはスタート。ロックにディスコ、ファンクなどをごちゃ混ぜにしたハイブリッドソングだ。間奏では亀田と向き合ってベースを弾くシーンがあり、さらに亀田から丸山へとソロフレーズが受け渡されていくなど、随所にスペシャルな見どころが満載だった。

「ヤッバー、楽しすぎて襟立っちゃった」と思わず笑みがこぼれるほどいきなり全開のステージ。ここから、亀田とのトークで、二人が出会った経緯を語っていく。こうしたアーティストとのトークもまた、『日比谷音楽祭』の重要なファクターだ。
「国際フォーラム・ホールAは、僕らのグループが初めて東京でやった会場なんです」ということに触れつつ、2曲目は亀田からのリクエストで『ヒカリ』。この曲は、丸山がリードボーカルを務めるソロ曲だ。ピアノとストリングスの旋律に丸山の細い糸のような声が絡む。分厚い闇をそっと破る光の筋が見えた――そんな映像的な感覚も刺激されるパフォーマンスだった。

赤いドレスで登場したのは小野リサ。「皆さま、ボサノヴァってご存知ですか?」と問いかけると、会場から拍手が起こる。ボサノヴァは、1950年代にブラジルのリオデジャネイロで生まれた音楽だ。まずは、ボサノヴァ入門編にして絶対的定番曲として、生みの親であるアントニオ・カルロス・ジョビンの名曲3曲『Wave』『So Danco Samba』『Samba de Uma Nota Só』をメドレーで披露した。

「私はデビュー当時ボサノヴァにこだわってアルバムを作っていましたけど、途中から音楽の旅を始めました」と言って、次にパフォーマンスしたのは南アフリカの子守唄『NAIMA』。軽やかでかわいらしいメロディがいかにも子守唄という感じがして、改めて音楽に国境や壁がないことを思い知らされる。それと同時に、こんなやさしい音楽が普通に流れる日常が愛おしく感じられた。

最後は、「カルロス・ジョビンのおいしいおいしいおいしい水」とチャーミングに紹介した『Água de Beber』。軽快にして哀愁を帯びたメロディは、もしかしたら会場のなかにも一度は聴いたことがある人もいたかもしれない。ブラジルから南アフリカを経由してまたブラジルに戻って来た音楽の旅は、オーディエンス一人ひとりのなかでここからさらに続いていきそうだ。それを予感させる何度も湧き起こる波のような熱狂的な拍手が小野リサに贈られた。

スガ シカオはアコースティック・セッションで3曲をパフォーマンスした。1曲目『Progress』のイントロが鳴った瞬間、会場全体が耳を澄ますような体勢を整えたような感じがした。アコースティックギターを中心に展開されるサウンドは、スガ シカオという稀有なアーティストの生々しいまでのソウルを感じることができる。今回の、The Music Park Orchestraとのアコースティック・セッションという形は、当然ながらここだけのスペシャルなもので、一人でもなく、バンドでもない、セッションだからこそスガ シカオの純度を高く感じられるまたとないライブとなった。

「素晴らしい環境ですね。こんなすごいことを無料で観られるようにしているっていうのは本当にすごいことだと思います」

2曲目は『Hop Step Dive』。オリジナルではエレキギターの歪んだサウンドが印象的だが、アコースティック・セッションで聴く同曲は、ロックというよりも元々ソウル色の強い楽曲だったということがわかる。

「ちょっと古い曲で、僕がSMAPさんに提供した曲なんですけど」、というところで会場からは大きな拍手が贈られた。3曲目に『夜空ノムコウ』を披露してこの日のパフォーマンスを終えた。名曲のすごさたるや……という迫力に圧倒された。

『日比谷音楽祭』皆勤賞となる新妻聖子、「日比谷音楽祭8年生」と自己紹介。1曲目は亀田実行委員長の提案で、まもなく伝記映画が公開されるということで、マイケル・ジャクソンのカバー『Man In The Mirror』をセレクト。歌の感情を掘り起こすように丁寧に歌いながら、曲の盛り上がりに合わせてステージ左右に動き、オーディエンスをきちんと煽るパフォーマンスにミュージカル俳優としての矜持を見たような気がした。また、バンドのアレンジも生バンドでしか表現し得ない、より厚みを増したものになっていた。

「皆さんの演奏のエネルギーがすごくて」と新妻も感無量といった様子。次に歌うのは、ミュージカル『ミス・サイゴン』から『命をあげよう』。歌唱後、こぼれる涙を拭いながら「この曲を歌うとベトナムに行ったまま、なかなか戻れなくなるんです」と言った彼女のパフォーマンスは素晴らしかった。幅広い音域を行き来する難易度の高い歌唱に加えて、我が子に対する母の深い愛情を表現した歌の内容は、生半可には立ち向かえないものだろうと想像する。歌を歌うということのすごさが感じられた。

最後に披露したのはオペラの名作『トゥーランドット』から『Nessun Dorma 誰も寝てはならぬ』。キング・オブ・ポップの名曲からミュージカル、オペラの大ネタまでを縦横無尽に歌い切った彼女の歌唱技術と、何より歌への愛に胸が詰まった。

『Hibiya Dream Session 1』のトリを飾るのは、岡村靖幸。ドラムのカウントが入るとバンドが演奏を始める。紫の照明がステージを染め、そこに岡村靖幸が登場する。1曲目は『Lion Heart』。マイクスタンドから素早くマイクを外してスタンドを脇に置く。ハンドマイクで歌い出す。一連の、何でもない動作が全てショーになる。それが岡村靖幸が岡村靖幸たるゆえんだ。スウィートなギターソロを奏でる佐橋佳幸は、岡村の初期作品を支えたセッションギタリストだ。この2人をステージで観られるというのも特別な瞬間だ。

曲終わりに早速ゲストとして呼び込んだのは、丸山隆平(SUPER EIGHT)。コラボするのは、岡村がSUPER EIGHTに提供した『ハリケーンベイベ』。グループとのコラボはこれまでもあったが、丸山とサシでというのはもちろん初。しかも、岡村がSUPER EIGHTのダンスを完コピして丸山とシンクロ。

ラストの『愛はおしゃれじゃない』でも切れ味鋭いステップを見せた岡村のダンスは、いつ観ても心が震えるものがある。それは踊りというよりも音楽そのものを形にしたものだ。オーディエンスも総立ちで自分なりのダンスをその場で踊りながら手を叩く。一日の最高の終わり方ってこれじゃないかな、と思った。

文:谷岡正浩

  • 5/30 Sat
    Hibiya Dream Session 1
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