Playback 日比谷音楽祭2021 - Report & Interview -
- Report -
オンラインでも
“日比谷音楽祭らしさ”が貫かれた2日間
〜日比谷音楽祭2021に寄せて〜
文 内田正樹(ライター・編集者)
2021年、5月29日(土)、30日(日)日比谷音楽祭2021がオンライン生配信にて開催された。未曾有のコロナ禍、昨年2020年は止む無く開催を見送っていたため、結果としては二年越しの第二回となった。
本来であれば、2019年の第一回開催時のように、おそらくはONGAKUDO(小音楽堂)、KADAN(第二花壇)、Musication Village(日比谷図書文化館)、東京ミッドタウン日比谷、そしてYAON(日比谷公園大音楽堂)など、日比谷公園内と近隣の施設を目一杯使ってのプログラムが組まれるはずだったのだろう。しかし、今年はコロナ禍の影響を受けてU-NEXTのマルチアングルシステムを用いて設けられた3チャンネルを通して、各会場からアーカイブ無しのオンライン生配信(※1)というスタイルとなった。
筆者は、2019年は現地で日比谷音楽祭を楽しんでいた。今回はオンラインだが、それでも現地の模様を見学してみたいと思い、今年も所定のガイドラインに沿った検査を受けて現地を訪れた。とは言え、ライブも客席の最後尾から幾つか観たのみで、基本的には一般視聴者と同じようにほとんどのコンテンツは配信を通して観た。無論、感染対策への配慮から亀田を始めとする出演者にも一切会わなかった。
無観客のYAONステージ
2019年の日比谷公園は、あちこちで催し物が行われていて、まさにフリーで誰もが参加でき、親子孫3世代で楽しめるボーダーレスな音楽祭という精神性が公園全体で体現されていた。一方、今回は当然、野音や小音楽堂の近くまで来れば、ほんの少しだけ音が聴こえるものの、全体的にはマスクをした人々が思い思いの時間を過ごしているという、普段通りの土日の公園の風景だった。そんな風景と並行して、同じ場所でいままさに日比谷音楽祭2021がリアルタイムで行われているというのは、いささかシュールな感覚だった。しかし、これは実行委員会の努力の賜物で生まれた風景だった。
別途掲載の亀田誠治実行委員長のオフィシャルインタビューでも語られている通り、今回は一般の方が現地を訪れるという人流の増加や、たまたま聴こえてきた音楽による人の密集を避けるために、音漏れへの徹底的な対策が行われていた。だからこそ、公園の風景と音楽祭が全く切り離された状態で、しかし共存していたのだ。
人が集まったり滞留しないように案内するスタッフが各所に配置されていた
では、肝心の音楽祭そのものはどうだったのか。興味深いことに日比谷音楽祭はオンラインでも見事に日比谷音楽祭だった。全編を通して、日比谷音楽祭“らしさ”が存分に伝わってくる、充実のプログラムだった。
全てのプログラムに触れると長くなってしまうので一部について書く。30日に小音楽堂で催された武部聡志プロデュースステージでは、ボーカリストに家入レオ、橋本愛(w/亀田誠治)、半﨑美子、一青窈(w/立教大学手話サークルHand Shape)、miwaをフィーチャーしたレアなフィメールボーカルの競演が実現した。
武部聡志プロデュースステージ / 武部聡志 with 一青窈 with 立教大学手話サークル Hand Shape
また野音(大音楽堂)におけるHibiya Dream Sessionでは、亀田率いるスペシャルバンドThe Music Park Orchestraを中心に2日間で3つのパートに分けたスペシャルなセッションが行われた。29日のHibiya Dream Session1では、KREVA、日比谷ブロードウェイ(井上芳雄、島田歌穂、中川晃敦)、Little Glee Monster、いきものがかりが登場。コロナ禍でリモートによる作業を重ね、いきものがかりと亀田が共同制作した楽曲「今日から、ここから」が初披露された。
Hibiya Dream Session1 / いきものがかり
30日のHibiya Dream Session2では山弦、ホリエアツシ、アイナ・ジ・エンド(w/立教大学手話サークルHand Shape)、山岸竜之介、GLAY、さらに同日のHibiya Dream Session3では生田絵梨花、YOYOKA、上妻宏光、MIYAVI、桜井和寿が、いずれもこの日ならではのアンサンブルやサプライズなレパートリーの数々を届けた。
Hibiya Dream Session2 / アイナ・ジ・エンド with 南里沙
新しい試みも多々あった。梁邦彦(29日)のライブは韓国・ソウルでのライブが収録で届けられ、Theたなしん・パーク・オーケストラ2021(29日)では、同音楽祭の公式YouTubeチャンネルで募ったメンバーを交えての初顔合わせ同士による朗らかなセッションが行われた。さらに、ぐるぐるグルーヴクラブLIVE feat.GAKU-MC(30日)では 、6人の子どもたちがオンラインワークショップで「KORG Gadget for Nintendo Switch」を用いて作ったトラック(これがいずれもクオリティが高いこと!)にGAKU-MCが書き下ろしのラップを付けた楽曲を発表した。
数々のワークショップや貴重なトークも日比谷音楽祭“らしさ”を物語る特性だ。ストリーミング大注目音楽人(29日)では亀田を交えたアーティスト/ライターらが最新の音楽ストリーミング環境の動向やプレイリストの楽しみ方を思い思いに語り合い、ロックの聖地・日比谷から辿るLOVE & PEACE+ROCK’N ROLL(30日)では、ゲストに立川直樹を迎え、亀田との対談から、日比谷という都市が日本の音楽文化においてどのような場として機能していたのかを紐解くヒストリートークが展開された。
その他、協賛企業各社によるこの日のために制作されたスペシャルムービー、音楽マーケットONLINEやサポーターインタビューなど、日比谷音楽祭2021に賛同する多くの支援があたたかな温度で伝わってくる丁寧な施策も行われていた。
[ワークショップ]ぐるぐるグルーヴクラブ feat. GAKU-MC
印象的だったのは、本稿で紹介できなかったライブも含めて、多くのアーティストがMCの際に「やってきました」、「ようやく」、「待ってました」、「楽しみにしていた」と日比谷音楽祭のステージに立つことを心待ちにしていた様子を語ったことだった。2回目の開催によって、この日比谷音楽祭がアーティストにとって「待たれる」存在の音楽祭として成長を遂げた事実がリアルに感じ取れた。
2019年の寄稿でも触れたが、亀田が日比谷音楽祭で目指しているのは、文化の発展に繋がる土壌の開拓と種蒔きであると筆者は受け取っている。コロナ禍においても、その種蒔きの輪は着実に広がっていたと言っていいだろう。その輪は関係者のみならず、達成金額11,777,000円をマークしたクラウドファンディングが象徴するように、一般のオーディエンスにも着実に広がっていた。
2日間の視聴者数約15万人、総再生回数約51万7000回。大盛況の2日間だった。
本稿執筆時点でも未だコロナ禍は収束の気配が見えていない。大規模フェスの中止や延期、4度目となる緊急事態宣言下のスケジュールの変更など、コンサートや演劇等のエンターテイメントは日々一進一退の状況を強いられている。今回、日比谷音楽祭2021のスタッフが一丸となって徹底した感染対策については、別途亀田のオフィシャルインタビューに記録したので一読を願いたい。
「コロナに打ち勝った云々なんて言う気はさらさらありません。しかし、一歩ずつ着実なやり方でライブ環境を整備していけば、様々なスタイルでみなさんに音楽を提供することが出来る。今回はその手応えが得られました。次回の開催を然るべきタイミングで皆さんにインフォメーション出来るように頑張ります」(亀田のオフィシャルインタビューより抜粋)
次回へ、またその先に続く未来へ大きな期待を寄せて、引き続き今後の日比谷音楽祭に注目したい。
(※1.アーティストやプログラムによっては事前録画を使用した)
実行委員長 亀田誠治 オフィシャルインタビュー Interview